舞台を尾道にした理由、阿達慶キャスティングの意図…『リライト』松居大悟監督、上映後の観客からの濃厚な質問に続々回答!
“SF史上最悪のパラドックス”として話題を呼んだ法条遥の同名小説を映画化した『リライト』(6月13日公開)のティーチイン付きMOVIE WALKER PRESS試写会が5月29日に神楽座で行われ、松居大悟監督が出席。上映を楽しんだ観客から濃厚な質問が続々と上がり、松居監督が興味深い回答で会場を沸かせた。
数々の青春映画で若い世代から圧倒的支持を集める松居監督と、“時間もの”で高い評価を獲得している脚本の上田誠が初タッグを組んだ本作。主人公の美雪(池田エライザ)は、高校時代に300年後からやってきた未来人の保彦(阿達慶)と出会い、恋に落ちる。彼と過ごしたひと夏の物語を小説にする約束をした美雪は10年後に小説家となり約束した物語を書き上げ、彼との出来事は“自分だけのもの”だったと信じるが、「保彦との特別な思い出があるのは1人だけじゃない」と同級生から衝撃の事実が明かされる。
上映が終わると、熱い拍手が上がったこの日。松居監督が「上映後にお話をするのは初めて。せっかくなので、皆さんが気になったことや質問など、整理できていないことまで含めてざっくばらんにお話しできたら」と意気込むなか、イベントがスタートした。本作で松居監督は、「師匠」と尊敬する脚本の上田と初タッグを組んだ。「脚本を作るまでの行程は、荒野をずっと走っているようで。とても強い原作で、それを映画にするためにはどうしたらいいかという過程も見ていた。初稿に至るまでが長い旅だった」と回顧。「台本を受け取った時には、とんでもないパズルと辻褄がそろったものだと思った」と上田による脚本に惚れ惚れとしつつ、「緻密な地図をいただいたので、そこに色を塗ったり、立体的にしていく作業として、僕やスタッフのみんなで作っていった」とスタート地点を振り返った。
観客からの質問を受け付けることになると、続々と手があがった。主演の池田、映画初出演を果たした阿達をはじめ、橋本愛、久保田紗友、倉悠貴など、注目の役者陣が顔をそろえた本作。
「このキャストでこのシーンを撮れてよかった」と思うような手応えについて聞かれた松居監督は、「たくさんあります」と役者に敬意を表しながら、池田と橋本を同じ画角に収められたことに「映画人としてシビれた。どちらを向いても映画になるなと思った」と感激しきり。また「保彦役の阿達さんは現在19歳。池田さんや橋本さんは、阿達さんより年上になりますが、キャスティングの狙いとはどのようなものですか」という質問に対しては、「2年前の夏に撮影をしていました。当時、阿達くんは17歳。エライザさんや橋本さんは27歳でした」と10歳の年齢差があると話した松居監督。「この作品はキラキラとした青春ものに見えて、10年後の大人の話もメインになってくる。高校時代と10年後は、同じキャストに演じてもらいたいと思い、20代中盤から後半の役者に頑張って高校生の役をやってもらった。保彦だけは未来人なので、実年齢が高校生3年生に近い人がいいなと。保彦が(未来人として)浮けば浮くほどいいなと思っていました」とキャスティングの意図を明かした。
また尾道が舞台となり、“ラベンダーの香り”という表現が登場したり、尾美としのりが参加していることから、「随所に大林宣彦監督の『時をかける少女』の影響を感じました。この舞台設定は、大林監督へのリスペクトからのものでしょうか」と問われる場面もあった。
松居監督は「原作は、法条先生の故郷である静岡が舞台です。もともと台本を作っている時はそのつもりで考えていたんですが、原作も含め、大林監督の『時をかける少女』を彷彿させるなと思った。これを映画として作る時に、『時をかける少女』を通ってきた方ならば、必ずピンとくる共通言語から始めたいなと思って、プロデューサーさんや上田さんに『尾道でやってみませんか』とお話しして。法条先生に確認してもらったところ、『大丈夫です』と言っていただけました」と経緯を説明。「尾道にシナリオハンティングに行ってみると、時間が止まっているように穏やかで、絶対にタイムリープなんて起きそうにないところだった。ここに未来人がやってくるということに、すごく映画的なカタルシスがあるのではないかと感じました」と実感を込めた。劇中で教師役を演じた尾美としのりからは、「自分が『時をかける少女』をやっていた時は、先生がネクタイを触る癖があった。それをやっていいかな」と提案があったのだとか。尾美からのアイデアをうれしそうに述懐しつつ、松居監督は「尾道は前を見ると海で、後ろを振り返ると山がある。道が細くて風も流れるので、そこも『リライト』のテーマになるなと思った」と映画的な街だとしみじみと話していた。
細かいシーンについても投げかけがあり、「美雪が(実家の近くにある)お地蔵さんによく手をあわせていましたが、そのシーンに込めた想いは?」という質問に、松居監督は「時間構造としてやることがめちゃくちゃ多いし、通らなければいけないこともすごく多いけれど」とタイプリープとしての設定や伏線も描きつつ、「映画だからこそ、美雪の生活や背景がにじみでるようにしたかった」とコメント。「台本には出てこないし、タイムリープとは関係ないけれど、美雪がお母さんのジャム作りを手伝ったり、お茶を飲んだり、お父さんが亡くなってからここまでどのように過ごしてきたかがにじみでるといいなと思っていた。親からはきっと『お地蔵さんのところでは、ちゃんと挨拶しなさい』と言われていたのかなと思った。実際にあの場所にはお地蔵さんはありませんが、置かせていただきました」と細やかな部分も、登場人物を愛情深く見つめることで膨らんでいった様子だ。「こんなに手があがってうれしいです」「興味深い質問が多くておもしろいです」と終始、喜びをにじませていた松居監督。「今日、観た皆さまは仲間だと思っています」と映画を観た感想や観賞後の気持ちを、ぜひ誰かと共有してほしいと呼びかけて大きな拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝