「アイドルとは知らなかった」『6時間後に君は死ぬ』イ・ユンソク監督が明かす、NCTジェヒョンの芯の強さと純朴さ
「インディーズ映画監督の活動を支援することと、世代交代が重要」
イ・ユンソク監督は日本映画学校(現・日本映画大学)で学んだのち、日本映画で助監督からラインプロデューサーまで務めた。満を持して韓国長編デビュー作となった今作は、日本で学んだノウハウを活かした巧みな技術力を感じる。とはいえ労働時間が決められている韓国の撮影現場のシビアさも含め、初めての韓国でのディレクションは簡単ではなかったそうだ。
「準備期間が3週間しかなかったんですよ。なので、日本での低予算映画からビッグバジェットまで色々経験して培ったことを活かしつつ、どうすれば成立できるか進行していきました。俳優の方とも、プリプロダクションの時に脚本を読み合わせたり、人物設定も主演2人に同意を得て現場での芝居を見つつ、この表現がいいのかバランスなどを確認して合わせていきました。そういう現場だったので、ギフンを演じたベテランのクァク・シヤンさんに本当に助けていただきました。主演の若い俳優を引っ張ってくださいました」。
いま、韓国の映画業界は危機感を募らせている。コロナ禍以降も映画館の観客数は回復せず、ヒット作が生まれない。第78回カンヌ国際映画祭の主要部門招待作には、韓国映画が一本も選ばれなかった。決して作品のクオリティが落ちているわけではないはずだが、OTT作品の台頭などもあり、映画大国がかつての活気を失っているのは事実かもしれない。
「韓国での仕事はほぼ4年目になりますが、まず感じたのはインディーズ映画の本数が減っていること。そもそも映画って他の芸術とは違い、やはり“興行”を抜きにして話はできないですよね。劇場公開作品はどうしても興行が成功したかどうかで語られます。韓国はそれがすごくシビアなところまで来てしまっています。劇場の観客数についても、韓国は相当減ったまま戻っていません。しかも、今は韓国映画に対する観客の目もかなり厳しくなっています。昔だったら20万人30万人も入った映画も、今は1万人2万人入ればいい。結構深刻ではあります」。
しかし、「だからこそ、今がチャンスじゃないかなと思うんです」と、希望を捨ててはいない。映画の現場を知り尽くした映画人が語る韓国映画の未来は、力強い。
「日本から見て、韓国映画が昔に比べて活気がなさそうに見えるのは、どちらかといえばインディーズの方ですよね。商業映画は成功もしていますし、おもしろい映画も作られていますが、年齢が上の世代の監督たちの作品が成功する例が多いので、むしろ若い人たちがどんどん出てこられる構図を作ったほうがいいと思うんですよ。あまり奇抜だったり新しすぎたりすることをやろうとしても、利益を考えてやらせてもらえないというのは、興行作品を作るうえで悪循環なんですよね。私は自由にやらせてもらえたのは本当によかったですが、自分の周りは映画が撮れていないみたいですね。かつては4億ウォンないと映画が撮れないと言われていましたが、いまは1億ウォン程度の予算の作品が出てきています。このくらいまでバジェットを減らしておもしろい作品が出てくるのがいいんじゃないかなと思います」。
そして、韓国と日本での映画業界の差は、世代交代だとも指摘した。
「いま、中国、台湾、韓国に比べると、日本の監督たちの年齢が年々若くなってきて勢いがある。すごくいいことで、韓国ももっと若い監督にチャンスを与えて、おもしろい映画を撮らせたほうがいいんじゃないでしょうか。韓国だっていままでやってきた力はあると思うんです」。
次回作は、女性がメインに登場するホラー映画だという。サスペンス映画で長編デビューし、次はホラーとジャンルものが続くことについて、監督は「個人的には成瀬巳喜男監督が好きなんですけどね」と笑う。だが「ジャンル映画の枠でも今回のように人間を描くことはできるので、そこは心配していないです」と自信をのぞかせる。長編デビュー作で、ここまで高い完成度。この監督には、隙はない。
取材・文/荒井 南