「アイドルとは知らなかった」『6時間後に君は死ぬ』イ・ユンソク監督が明かす、NCTジェヒョンの芯の強さと純朴さ

「アイドルとは知らなかった」『6時間後に君は死ぬ』イ・ユンソク監督が明かす、NCTジェヒョンの芯の強さと純朴さ

30歳の誕生日を間近にした女性が、雑踏ですれ違った奇妙な男性から「6時間後に君は死ぬ」と告げられる――『6時間後に君は死ぬ』(公開中)はこの導入こそ奇抜なサスペンスだが、厚みあるキャラクターや、現代社会を映し出すストーリーラインに惹きつけられたまま、90分間スクリーンから目が離せない。日本の映画界でキャリアを積んだイ・ユンソク監督が、若い主演俳優二人とのエピソードや現在の韓国映画界を取り巻く状況を語ってくれた。

予見された未来と運命に抗う6時間の推理サスペンス『6時間後に君は死ぬ』
予見された未来と運命に抗う6時間の推理サスペンス『6時間後に君は死ぬ』[c]2024, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

「他人を先入観や偏見の目で見てしまう間違いを伝えたかった」

イ・ユンソク監督と作品の出会いは、約7年前に今作の制作会社ミステリーピクチャーズの代表から映画化を持ち込まれたことだった。映画は高野和明が2001年に発表したミステリー小説に時系列も含めかなり忠実で、随所に原作へのリスペクトを感じる。実は当初の脚本では、“死を宣告する男性と告げられる女性”という設定以外、ほとんど小説と違っていたそうだ。ミステリーピクチャーズの代表は、原作に戻したいという意向を示したという。

【写真を見る】『6時間後に君は死ぬ』撮影中、ジェヒョンにディレクションするイ・ユンソク監督
【写真を見る】『6時間後に君は死ぬ』撮影中、ジェヒョンにディレクションするイ・ユンソク監督[c]2024, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

その後原作を読んだ監督は、「主軸は小説どおり進めば間違いないので、登場人物たちが関係を持つことで社会の姿が浮かび上がり、より立体的な作品として成立する」と、脚本を改稿。その手によって、キャラクターたちはより立体的になった。当初の女性主人公は25歳のごく普通の会社員だったが、30歳で生活が苦しくアルバイトに明け暮れている、というリアリティが付け加えられた。

死を告げる男性ジュヌとその言葉の真相を探ろうとする女性ジョンユンの彷徨の傍らで、若い女性たちをターゲットにした凄惨な連続殺人が起きる。ジョンユンと顔見知りの刑事ギフンと共に捜査にあたるユ刑事は、映画だけに登場するキャラクターだ。男性中心の警察組織で苦悩し、罪のない女性ばかりが犠牲になる事件に怒りを抱く彼女の存在は、作品のメッセージをより重く強いものにアップデートしている。

「基本はミステリーであり、ファンタジー的だというジャンル小説の要素を残しつつ、人物設定やキャラクターの裏側をどう構成していくか、どのようなセリフを与えるかに取り組みました。日本も韓国も、かつて20代30代がやっていたことを30代から40代でやるというように、年齢が上がっていますよね。原作が発表された20年前くらいなら、韓国の女性だと20代は結婚が一番大事な問題になっていたかもしれない。しかし、最近は30代中盤や後半になって結婚や出産という問題に直面します。それなら青春や若者を描くとしたら、やはり29歳から30歳に向かう誕生日という設定にすればおもしろいんじゃないかと思いました」。

二人の若者が自分の過酷な運命に一歩ずつ近づいていく…
二人の若者が自分の過酷な運命に一歩ずつ近づいていく…[c]2024, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

6時間後に誰かが自分を殺しに来ると確信したジョンユンは、ジュヌと共に心当たりを探そうとする。その中で会うある人物は、海外がルーツのマイノリティだ。このオリジナルキャラクターにも、韓国社会で疎外されている存在をゆるがせにしないイ・ユンソク監督の思いが反映されている。


「韓国には社会的マイノリティがたくさんいて、地方からソウルへ上京してきている女性もまたマイノリティであるし、海外から来ている人々はさらにマイノリティなんですよね。同じ民族でも先入観で偏見にさらされられているんです。ジョンユンも誰かから偏見を向けられた経験があるわけですが、彼女も“いい人”というふうに描いていないので、彼女自身も同じように他人を先入観や偏見の目で見てしまうことがあるんです。そのエピソードを通じて“自分も間違えていたんだ”ということを伝えておきたかったんです」。


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