『エミリア・ペレス』でミュージカルに挑んだ72歳、ジャック・オーディアール監督「ジャンルを取っ払った映画づくりがしたい」

インタビュー

『エミリア・ペレス』でミュージカルに挑んだ72歳、ジャック・オーディアール監督「ジャンルを取っ払った映画づくりがしたい」

「私が無視するのは、映画のジャンルが持っている制約」

『エミリア・ペレス』の撮影現場。リタと、エミリア・ペレスことマニタスの4年ぶりの再会シーン
『エミリア・ペレス』の撮影現場。リタと、エミリア・ペレスことマニタスの4年ぶりの再会シーン[c]2024 PAGE 114 WHY NOT PRODUCTIONS PATHÉ FILMS FRANCE 2 CINÉMA 制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ

――そのなかで映画の企画として進んでいるのはあるんですか?

「いや、具体的には決まっていません。私はこれまで、1本が公開に漕ぎついた時には、次作の準備をしていることが多かったんですが、今回はなにもやっていない。『エミリア・ペレス』は製作に4年半を費やしたのでさすがに疲れ果て、しばらく休もうと考えているんです」

――本作のみならず、監督の作品は国境や言語、性別等、すべてを乗り越えるような傾向が強いように思います。この認識は正しいですか?

「いや、ちょっと違いますね。私は別にそういうものを超越したいと思っているわけじゃないんです。ただ、いろんなものに興味があって、その興味の赴くままに撮ってきたというのが正解です。もし、なにかを越えたいというのなら、ジャンルでしょうか。このジャンルの映画なら、こういうふうに創ったほうがいいという規制がありますよね?私はそれを取っ払った映画づくりをしたい。そういうお約束的なことを言われるのが大嫌いなんです(笑)。ミュージカルであろうがウエスタンであろうが、自分のやり方で撮る。私が無視するのは、そのジャンルがもっている制約なんです」

トランスジェンダーの俳優、カルラ・ソフィア・ガスコンによる、マニタスとエミリアの演じ分けも見ものだ
トランスジェンダーの俳優、カルラ・ソフィア・ガスコンによる、マニタスとエミリアの演じ分けも見ものだ[c]2024 PAGE 114 WHY NOT PRODUCTIONS PATHÉ FILMS FRANCE 2 CINÉMA 制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ

――だから、今回のようなミュージカルになるわけですね。

「そうです(笑)」

――『エミリア・ペレス』は今年のアカデミー賞で作品賞をはじめ12部門13ノミネートされましたし、ほかの作品も様々な映画賞に輝いています。ハリウッドのメジャースタジオで映画を撮る日が来ても不思議じゃないと思うんですが。

「うーん、ハリウッドで撮りたいのなら、もっと早くから動いていたと思います。ハリウッドに興味が沸かないのは、先ほど言った“規制”です。規制が多いところで映画は撮りたくない。でも、役者に関しては違います。ハリウッドやアメリカの役者を使ってヨーロッパで映画を撮るというのはアリだと思います」

アカデミー賞助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナが、エミリアを支援する敏腕弁護士リタを演じる
アカデミー賞助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナが、エミリアを支援する敏腕弁護士リタを演じる[c]2024 PAGE 114 WHY NOT PRODUCTIONS PATHÉ FILMS FRANCE 2 CINÉMA 制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ

――本作のゾーイ・サルダナもハリウッドの女優さんですものね。彼女のアカデミー賞助演女優賞受賞はいかがでしたか?

「とても誇りに思っています。これで彼女のキャリアが大きく変わると思うし、どんどんすばらしいオファーが彼女のもとに舞い込んでくるんじゃないでしょうか」

――いまハリウッドの役者で注目されている人はいるんですか?

「いまはフランスの役者に注目していて、ハリウッドはどうだろう…あ、あの『ANORAアノーラ』のヒロイン、アカデミー賞で主演女優賞を獲得した彼女(マイキー・マディソン)は興味深いと思いましたね」

「実はウエスタンは好きじゃない(笑)」と打ち明けたジャック・オーディアール監督
「実はウエスタンは好きじゃない(笑)」と打ち明けたジャック・オーディアール監督撮影/木村篤史

――最後の質問です。最近の風潮として、映画そのもののクオリティよりも社会的、政治的な要素を優先して評価するという流れがあります。そういう傾向をどう考えますか。

「そういうことに対する個人的な意見はないですが、前も言ったとおり、映画として最も重要なのは、シネマとして成立しているかです。いくら社会的な要素がたくさん詰まっていても、シネマとは呼べないような作品は結構ありますから。そういう意味で私は、ちゃんと“シネマ”と呼べる作品を、これからも創っていきたいと考えています」


取材・文/渡辺麻紀

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