シネマ・ロサ支配人が明かす、『侍タイ』『ベビわる』大ヒットの舞台裏とインディーズ映画が持つ“魔力”「思いがけないヒット作が出るのは映画業界ぐらい」
「お客さんとの触れ合いをミニシアターに求める映画人の方たちも多い」
その流れのなかで大ブームを巻き起こしたのが、阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』(21、以下『ベビわる』)だ。「厳密にいうと、あのシリーズの1作目はウチの封切りではなく、テアトル新宿さんの2週間の限定レイトショーがスタートだったんです。阪元監督ともそれまでまったくご縁がなかったですね。でも、阪元監督の2本の新作『最強殺し屋伝説国岡 完全版』と『黄龍の村』をやるのがその時点で決まっていた。そしたら、『ベビわる』の配給会社さんから『テアトル新宿さんでの上映が2週間で終わってしまうんですが、ロサさんでやりませんか?』というお話をいただいて。最初は新作2本のプラスになればいいかな?という軽い気持ちでお引き受けたしたら、私がハマっちゃって、結果的にウチだけで盛り上がっちゃいました(笑)」。
そこでたくさんの観客を呼び込むことができる爆発力もシネマ・ロサの力だが、そこでは運も味方をしたという。
「テアトル新宿さんでの公開時はコロナ禍だったから、舞台挨拶があまりできなかったんです。しかも、ヒロインの1人、まひろを演じた伊澤彩織さんが海外でのお仕事で日本を離れていたため、初日の舞台挨拶に立てなくて。戻ってきた時にはシネマ・ロサで上映していたので、シリーズ1作目の舞台挨拶でもう1人のヒロイン、ちさとを演じた高石あかりさんと伊澤さん、阪元監督の3人が揃ったのはロサが最初。シリーズ第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の3人での舞台挨拶もたぶんロサが最後になると思うので、そこに関しては感慨深いものがありました」。
矢川支配人はさらに、シネマ・ロサと高石あかりとの深い繋がりについても語ってくれた。「高石さんは、実はIFSで上映したほかの作品にもちょこちょこ出られていて、前から知っていたんです。そんな縁もあって、『ナイスデイズ』の3人揃った最後の舞台挨拶もロサでやらせてもらってホントうれしかったです(笑)。監督や演者も、こちらが思っている以上に、自分の作品を最初にかけてくれた劇場には愛着や思い入れが強いんです。ミニシアターを運営する大変さも知っているから気にかけてくれるし、SNSでは得られない、お客さんとの触れ合いをミニシアターに求める映画人の方たちも多いと思います」。
「思いがけないヒット作がボコボコ出るのは映画業界ぐらいです」
その傾向は別にシネマ・ロサだけではない。全国の各劇場が趣向を凝らした独自の打ち出し方で心を込めて上映するから時に爆発的なヒット作が生まれるのだが、矢川支配人は「でも、これだけ思いがけないヒット作がボコボコ出るのは、日本のエンタテイメント業界のなかでは映画業界ぐらいですよ」と複雑な笑みを浮かべる。
「近年は映画館でお金を払って観るのに値するドキュメンタリー作品が本当に定着してきていて。ロサも途中からやらせてもらっていますけど、ポレポレ東中野さんで封切った『どうすればよかったか?』なんて異例の大ヒットですよ。年末年始なんて、何故こんなに大勢の人たちが観にきているの?って感じだったし、先ほど話題にのぼったミニシアターを知らない若い人たちが結構観ていて。20代の子たちが一気に動いたことが大ヒットに繋がったのは間違いない。これには驚きました」。
「たぶん怖いもの見たさなんでしょうね」と矢川支配人は続ける。「“隣の家”を覗いてみたいんですよ。でも、その一方では、合わせ鏡のように、もしかしたら自分も、自分の家族も、という不安感も湧き上がって。いまの世の中、どんな立場の人も精神的に余裕がないですよね。でも、ヒットの要因は実際のところはわからない。昔からよく言うじゃないですか?“この業界、コケた要因は分析できるけれど、当たった要因は分析できない”って。だから、私、お客さんに『何故この作品を観に来たの?』ってたまに聞くようにしているんです。でも、あまりちゃんと取り合ってくれるお客さんはいませんね(笑)」。