『映画ちいかわ』が韓国で大ヒット!釜山国際映画祭のA級昇格、イ・ミンホの出演作をめぐる歴史歪曲論争など、10月の韓国現地レポートをお届け
韓国映画界の“いま”をお届けするPRESS KOREA。10月は、ホ・ジノ監督の新作『The Assassin(s)(英題)』をめぐる歴史歪曲論争が過熱し、映画の表現の自由をめぐる議論にまで発展。一方、今年31回目を迎えた釜山国際映画祭は、カンヌやベルリンと肩を並べるA級映画祭に昇格し、新たな節目を迎えた。さらに、日本発の『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』(公開中)が韓国の若者たちの共感を呼び、異例の大ヒットを記録している。賛否を巻き起こす話題作から、国際的な存在感を増す映画祭、国境を越えたキャラクターブームまで、韓国映画界をにぎわせた3つのニュースを韓国現地からお届け。
『The Assassin(s)』をめぐる歴史歪曲論争、釜山国際映画祭の関連イベントも相次ぎ中止
9月下旬に韓国で公開されたホ・ジノ監督の『The Assassin(s)』が、「歴史歪曲」という批判を受けながらも、観客数330万人を突破した。1974年に起きた大統領夫人狙撃事件をモチーフとした作品で、ユ・ヘジン演じる主人公の刑事と、イ・ミンホ扮する新聞記者が事件の背後を探る。
実際の事件では、在日コリアンの文世光(ムン・セグァン)が朴正煕(パク・チョンヒ)大統領を暗殺しようとして銃を乱射し、同じ場所にいた陸英修(ユク・ヨンス)夫人を射殺した。タイトルが『The Assassin(s)』、つまり『暗殺者(たち)』となっているのは、事件の背後に黒幕がいた可能性を示唆しているものだ。作中で黒幕の正体ははっきりと示されないものの、中央情報部(KCIA)の関与や、朴大統領による自作自演をほのめかしているとも受け取れることから、保守系の政界や団体から「歴史歪曲であり、死者の名誉を毀損する行為」と批判。制作陣は名誉棄損の疑いで告発された。
ホ・ジノ監督は「朴大統領が銃撃を指示したという解釈が出てくるとは、まったく思いもしなかった。朴大統領自身が撃たれる可能性もあるのに、どうして自作自演を企てることができるのか。あり得ない主張だ」と、反論している。
作品への批判は個人攻撃へ発展し、主人公の刑事を演じたユ・ヘジンの自宅前で保守系団体が上映中止を求める集会を開くなど抗議活動が過熱化。韓国映画界の各団体は「作品に対する批判と個人への攻撃は明確に区別されるべきだ」と声明を発表した。
10月6日から15日まで開催された第31回釜山国際映画祭でも、新人記者役を演じたイ・ミンホのトークプログラム「アクターズハウス」をはじめ、『The Assassin(s)』関連のイベントが軒並み中止となり、国際的にも波紋を広げた。
本作では、銃撃事件に加え、1974年も東亜日報の記者たちが発表した「自由言論実践宣言」もモチーフとなっている。軍事政権による言論弾圧に抵抗するための宣言で、新聞社の社会部長役を演じるパク・ヘイルがこれを読み上げるシーンがクライマックスを飾る。しかし、歴史歪曲論争ばかりが注目を浴び、作品に込められたメッセージは埋もれてしまったかたちだ。言論の自由をめぐる闘いを描いた作品が、皮肉にも映画の表現の自由をめぐる論争の火種となってしまった。
釜山国際映画祭がカンヌ、ベルリンと並ぶA級映画祭に昇格!
今年第31回を迎えた釜山国際映画祭が国際映画製作者連盟の認証を取得し、カンヌやベルリン、ヴェネチアと並ぶA級映画祭に認定れさた。最高賞の釜山アワード大賞を受賞した非英語作品には、米アカデミー賞国際長編映画賞への出品資格が与えられるなど、国際的権威が大幅に向上した。この出品資格が付与されたのは世界で6つの映画祭に限られ、アジアでは釜山映画祭が唯一。
A級映画祭は、作品選定や産業連携活動、運営能力などの総合評価によって認定される。釜山映画祭は1996年の創設以来、コンペティションを行わない非競争型の映画祭としてアジアの映画を幅広く紹介することに重点を置いてきたが、第30回を迎えた2025年、本格的なコンペティション形式を導入した。
10月6~15日にかけて開かれた今年の釜山国際映画祭では315作品が上映され、観客数は20万人を超えた。20万人を突破したのは2015年以来11年ぶり。開幕式では、釜山国際映画祭創設メンバーの1人で、初代執行委員長を務めたキム・ドンホ氏が「韓国映画功労賞」を受賞。釜山国際映画祭を世界有数の映画祭に育て上げ、「釜山国際映画祭の父」とも呼ばれる人物だ。「アジア映画人賞」は、アジア女性として初めてアカデミー賞主演女優賞を受賞したマレーシア出身のミシェル・ヨーに贈られた。
今年2回目を迎えたコンペティション部門には14作品が選出され、このうち4本は日本映画だった。大賞に輝いたイランのマジッド・マジディ監督の『Midday Meal(英題)』は、イラン辺境の小さな村を舞台に、1人の教師が廃校の危機に瀕する学校を守るため、やむを得ず石油の密輸に手を染める姿を描く。最優秀俳優賞は沖田修一監督の『さとこはいつも』(公開中)に出演した16歳の姫野花春が受賞。史上最年少の受賞で注目を集めた。
韓国の若者たちの共感を呼ぶ物語として、『映画ちいかわ』が韓国でも大ヒット!
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が9月末に韓国で公開され、10月23日時点で観客数193万人を突破する大ヒットとなっている。従来のキャラクターファンにとどまらず、現代社会の過酷な現実を描いた物語が、若者たちの共感を呼んでいる。
観客層は女性が約7割を占め、年齢別では20代が約4割と最も多い。見た目がかわいらしいキャラクターとは裏腹に、不穏な緊張感をまとった物語の展開が口コミで広がり、観客数は伸び続けている。激しい受験戦争を経て就職難の壁に直面する韓国の若者たちにとって、草むしりや資格取得、日雇い労働で生計を立てるシビアな世界観はまさに自分たちの物語。何度も映画館に足を運ぶファンも少なくない。
ソウルで行われた舞台挨拶ではちいかわ、ハチワレ、うさぎの着ぐるみが登場し、劇中歌に合わせてダンスパフォーマンスを披露するなど、話題を振りまいた。ちいかわたちの着ぐるみは韓国の音楽番組にも出演し、アイドルのような人気を集めている。着ぐるみと一緒に写真を撮れる入場者特典などを求めて映画館に徹夜で並ぶファンの姿もニュースで報じられ、過熱ぶりが話題になっている。
韓国でのちいかわ人気は、映画公開のずっと以前から高まっていた。2024年にソウルの龍山(ヨンサン)アイパークモールで開かれたポップアップストアには、10日間で約3万人が訪れた。今年2月には、同じ場所に常設店舗「ちいかわショップ」がオープンし、連日行列ができている。映画館でも限定グッズが飛ぶように売れ、CGVが発売したちいかわのキャラクターがモチーフのポップコーン容器3種類は、1個2万9000ウォン(約3500円)という高額にもかかわらず、相次いで完売した。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は21日に公開されたヨン・サンホ監督の新作『PARADISE LOST(英題)』を抑えて観客数1位を維持し、200万人の大台突破が目前に迫る。
文/成川彩

