「『ワイルド・スピード』と張り合っても仕方ない(笑)」三池崇史監督が語る、“ヤバイ”映画への回帰と自由な作劇

「『ワイルド・スピード』と張り合っても仕方ない(笑)」三池崇史監督が語る、“ヤバイ”映画への回帰と自由な作劇

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ジェレミー・トーマスとの出会いと別れ

――近年、海外では三池監督の初期作やVシネマ時代の作品がUHD(Ultra HD Blu-ray)で続々とリリースされていて、海外での三池監督の人気を実感させます。『極道戦国志 不動』まで発売されました。

「『不動』も、何か野心があって作ったわけではなくて、ビデオ屋さんの棚を埋めるために作ったんです。映画祭にはVシネマというカテゴリーがないから、プリントにすれば映画じゃないかということで、1997年のトロント映画祭のミッドナイト・マッドネス部門に呼んでもらったんです。夜中に上映して大盛り上がりしたんです。その時の経験というのは、やっぱり宝物ですよね。この作品でこんなに喜ぶ人がいるんだっていう」

間宮祥太朗演じる石塚が“肉団子”を作るシーンはトラウマ級
間宮祥太朗演じる石塚が“肉団子”を作るシーンはトラウマ級[c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――今回、プロデューサーを務めたサム・プレスマンさんは1987年生まれ。若いころに『オーディション』や『殺し屋1』を観ていた世代ですね。

「いま、いただいているいろんな話も、半分以上がそういう若い世代ですね。こっちは『えっ、そんな若い人が?』と思うんだけど、プロデューサーにしろ俳優にしろ、子どものころに観ていたから、監督は三池がいいと言ってくれて。そうやって、どこかで見ていてくれた人たちがいるというのは、作品を作っている我々にとってはうれしいことですね。ただ、見ている人たちがいるということは、同時に捨てられる可能性もあるわけで、どっちかというと、そっちの可能性の方が高い。楽しいけど怖いっていう世界ではありますよね」

――若い世代が出てくるなかで、先日、本作のプロデューサーであるジェレミー・トーマスさんが77歳で亡くなりました。三池監督が世界で発見され始めた初期のころから、熱心に声をかけていたそうですが、今回はどういう形で組むことになったのでしょうか。

「最初に出会ったのは、ベネチアでした。彼が一緒に映画を作りたいということで、声をかけてもらったんです。それがもう20何年も前。その間にいろいろ、超大作からなにから、いろんな企画がありました。俳優も候補が決まっていたり、ある程度具体的になったこともありましたが、大作だといろんな問題が起きるというか、成立しないのが普通という世界ですから、なかなか実現しない。そこで、我々が日本で作っている企画に参加してもらって、ヨーロッパに向けてジェレミーが紹介していくというようなことで、何本も一緒にやりました」

名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの遺作となった『バッド・ルーテナント:トウキョウ』
名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの遺作となった『バッド・ルーテナント:トウキョウ』[c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――三池監督の『十三人の刺客』や『一命』に、ジェレミーさんは製作総指揮や製作で携わっていましたね。

「そういう意味では、『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、初めて企画からガッツリ一緒にやれた作品ですね。撮影中、ジェレミーは日本にいたんですが、終始、自由を与えてくれるんですよね。完成した時も非常に喜んでくれました。トロント国際映画祭で正式上映が決まって、良かったねと言っていたんですが、ちょっと体調が悪くて行けないという連絡が入って。いよいよトロントだと言っている時に、亡くなったという知らせが来て。残念ではあるんですが、ジェレミーはジェレミーで、いままで全力でやってきたでしょうから、なんの悔いもない人生だと思います。トロントでお客さんに熱狂的に迎えられた時は、自分の隣の席でジェレミーが見ていた感じがしましたね」

――ジェレミーさんとの実現しなかった数々の企画も、機会があれば甦る可能性も?

「宿題をいっぱい出していなくなっちゃった先生みたいな感じがするんですよ。でも、それはジェレミーがいたから生まれたものなので、そのなかから、僕たちだけでもうまく作り上げることができるものは作っていって、ジェレミーに届けるのも役目かなと思ってます」

僕らは僕らのやり方で作っていく

内容は原点回帰だが、“いま”の映画界に沿った撮影が行われた
内容は原点回帰だが、“いま”の映画界に沿った撮影が行われた[c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、日米共同製作という新たな枠組みが、かつてVシネマにあったような自由を呼び戻したという点でも画期的な1本だと思います。日本映画も、撮影時間や休息時間、安全管理などの基準を定めた「映適」(日本映画制作適正化機構)のルールが適用される作品が増えるなど、労働環境に変化が見えてきました。国内外で撮る三池監督の目には、どう映っていますか。

「この間も海外と組んだ作品を日本で1本やったんですが、その時も、頑なに日本のスタッフで作ろうよって主張したんですよね。向こうからすると、DP(Director of Photography=撮影監督)をアメリカ人にした方が、制御しやすいはずなんですよ。でも、僕が意思疎通をうまく取るには、日本でやる限りは、できるだけ日本のスタッフでやっていきたい。アメリカの俳優たちはSAG(全米映画俳優組合)に入っているので、向こうが取り決めた時間に合わせなきゃいけない。僕もCAA(ハリウッド大手エージェンシー)と契約したので、アメリカの監督協会に入った方がいいと言われるんです。ただ、アメリカの監督協会に入ると、製作費自体が1.2倍くらい増えてしまうし、僕自身が規約で働けない時間も増えるんです。ありがたいことなんだけど、いま、世界に対して撮っている時に、そんなことをやってる場合じゃないよねっていう」

『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は公開中!
『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は公開中![c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――そのあたりの労働と規約の関係には、どう対処されていますか。かつては低予算、短期間の撮影日数で厳しい現場をくぐり抜けてこられましたが。

「僕らがかつて無茶できたのは、撮影が2週間で終わったから。まあ、2週間だったら楽しんでわーっとやっていると、半分くらい寝なくても大丈夫かな(笑)。それでスタッフも全部1段階上げるわけですよ。チーフだった人をカメラマンに、照明助手だった人を照明技師に。そうすると、撮りたいものが撮れるということで、お祭りのような現場になっていく。いまは撮影日数も長いし、寝ないわけにはいかない」

――労働環境のルールを守りつつ、限られた条件の中で工夫しながら映画を撮ることで『バッド・ルーテナント トウキョウ』のような快作が生まれたわけですね。

「そうです。ギリギリだけどセーフ。僕らには、僕らのやり方で作っていく自由度があった方がいいと思います」


取材・文/吉田伊知郎

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