実写映画『ルックバック』是枝裕和監督が再発見した映画館で観る価値「実写でできることってなんだろう、と考えた時に“音”だなって思ったんです」【連載「I’m a moviegoer」】

実写映画『ルックバック』是枝裕和監督が再発見した映画館で観る価値「実写でできることってなんだろう、と考えた時に“音”だなって思ったんです」【連載「I’m a moviegoer」】

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「原作の漫画に何を足して、何を削るかっていうことを考えた時に、『音だな』って思ったんです」

『ルックバック』上映終了後にスタンディングオベーションを浴びる是枝監督
『ルックバック』上映終了後にスタンディングオベーションを浴びる是枝監督[c]Kazuko Wakayama

――『ルックバック』は、第83回ヴェネチア映画祭のコンペティション部門に出品され、パラッツォ・デル・シネマ(映画の殿堂)で上映が行われました。この会場も、音響設計がすばらしかったですね。

「ただ、僕らが座っていた席(バルコニー席)から、スクリーンがちょっと遠くて。なかなか難しいな、と思いながら観ていました。難しいんだけど、逆にあの席に音はすごく届くんですよ。前のほうに座ると、逆に音が頭の上を通過しちゃう。なのでスクリーンは小さいんだけど、音はしっかり届いていました」

――上映中もですが、上映後もスタンディング・オベーションでとても暖かい拍手が長く続いたのが印象的でした。

「“音”を大切に録った作品なので、にもかかわらずというか、だからこそ実は音を消している沈黙の時間がとても大事な映画だと思っていました。(主人公の藤野と京本の)2人の気持ちが1つになる、コンビニの夜のシーンなどはあえて音を絞っていて、そのシーンでは劇場の中から音が消えて、観客が集中してくれてるのが伝わる瞬間でした。そのシーンで、ざわつかないといいなと思いながら上映に立ち会っていたので、そこがとてもお客さんも集中してくれてるなと感じました」

 収容人数1,032を誇るパラッツォ・デル・シネマのSala Grande

――『ルックバック』では、漫画を描くペンの音や生活音、それからあえて無音のところにすごくこだわって作られたということですが、音に着目してこの映画を作ろうと思われた理由は何だったんでしょうか。

「実写でできることってなんだろう、原作の漫画に何を足して、何を削るかっていうことを考えた時に、『音だな』って思ったんです。そこにたどり着かなかったら、多分実写版を撮ってないと思うんですけど。音の変化があの背中に加わっていくことで映画になるなって思いました。(原作者の)藤本タツキさんに最初に会った時に、具体的に漫画の映画化の話という流れではなく、ベテランのアシスタントさんが描く線がかっこよくて、自分には出せない迷いのない線を引くペンの音がすごく心地いいっていう話をお聞きして、なるほどなと思ったんです。それが最初でした」

藤野に憧れ、家にひきこもりながら絵を描き続けていた京本
藤野に憧れ、家にひきこもりながら絵を描き続けていた京本[c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社

――ヴェネチア映画祭の記者会見で、キャストの方々4人全員が、「漫画の練習が大変だった」とおっしゃっていましたが、是枝監督の目から見て、彼らがこの映画で得たもの、この映画で達成したことってなんだと思いますか。

「それは本人たちに聞くのが一番だと思うけど(笑)。演技は、耳を使うんだよっていう話は最初にしましたね。お芝居は耳が大事だから、相手のセリフも含めて、その場の音をちゃんと聞いてごらんっていう話をしました。子供時代の京本を演じた岡田六花さんは、その一言でちゃんと意識を持てるようになったから、すごいなと思いましたね。『役者だな、この子は』って。他に何か、こうしてとか、こう動いてみたいな指示はしてないと思います。そのままの動きがおもしろかったです。なんか不思議な動きするんですよ。スケッチブックを持って扉を開けて出てきてそれを下に置いて、僕が『ああずいぶん描いてきたな』と思いながらスケッチブックを見てって言うと、崩れそうになったスケッチブックを足で支えながら動く動き方がおもしろくて。

主人公2人の子ども時代を演じた七瀬ふうりと岡田六花
主人公2人の子ども時代を演じた七瀬ふうりと岡田六花[c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社

なんかこの子、ずっと見てられるなっていう感じでした。ふうりさんは多分、撮影も楽しかったと思います。撮影って楽しいんだなっていうことが発見できれば、あの役は成立するだろうなと。あの場にいることが楽しいという気持ちを発見してくれたら。一生懸命走ってもらって、一生懸命描いてくれればと思ってたけど、意外とちゃんと自分でアレンジしてセリフのニュアンスとか変えてきていました。藤野役の七瀬ふうりさんとのバランスも良かったです」


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