キャラクターの個性が物語を“ドライブ”させた成功例『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』【小説家・榎本憲男の炉前散語】

キャラクターの個性が物語を“ドライブ”させた成功例『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』【小説家・榎本憲男の炉前散語】

心を閉ざすウィルに、「自己開示」で歩み寄るショーン

マサチューセッツ工科大学の数学教授を演じたステラン・スカルスガルド
マサチューセッツ工科大学の数学教授を演じたステラン・スカルスガルド[c]Everett Collection/AFLO

数学の教授ランボー(ステラン・スカルスガルド)が学生たちに、廊下の黒板に出しておくから解いてみろと言って難題を出します。マサチューセッツ工科大学は超一流校ですが、そこに通う学生たちでも歯が立たないシロモノで、出題したランボー教授も解ける者がいるとは思っていないようです。それを、主人公のウィル・ハンティング(マット・デイモン)がすらすらと解く。次の授業で、ランボー教授は回答者に名乗り出るように言うのですが、清掃員の彼がそこにいるはずはありません。教授はさらに出題し、ウィルはそれも解いてしまう。ランボー教授がなんとかウィルの居所を突き止めたとき、素行の悪いウィルは、喧嘩が原因で逮捕され留置所にいます。ウィルの才能を開花させようと、ランボー教授はウィルにカウンセリングを受けさせることを条件にウィルの身柄をあずかることにするのですが……。

ウィルはこれまでも度々傷害や窃盗で警察沙汰を起こしていた
ウィルはこれまでも度々傷害や窃盗で警察沙汰を起こしていた[c]Everett Collection/AFLO

問題はカウンセリングです。ランボー教授はウィルに一流のカウンセラーをつけるのですが、ウィルはカウンセラーの手法を先読みして侮辱し、セッションを壊してしまいます。なぜそんなことをするのでしょう。それは、あとでわかります。ともあれ、最後の頼みの綱として、ランボー教授は旧友の心理学者・ショーン・マグワイア(ロビン・ウィリアムズ)にウィルを託すことにします。

ウィルはこれまでと同じようにショーンに反抗的な態度をとります。このとき、謎めいたキャラクターだったウィルについてひとつわかることがあります。彼は確かに、他人を分析することにかけては秀でているのですが、自分が分析の対象となることを極端に恐れているのです。そして、自分を防御しようと他人を必要以上に攻撃したり、侮蔑的な態度をとったりします。それに対し、この時のショーンは、これまでのカウンセラーが見せなかったような怒りを露わにします。なぜなら、ウィルがうっかりショーンの亡き妻を侮辱するようなことを言ったからです。


ウィルが放った挑発的な言葉が、ショーンの逆鱗に触れてしまう
ウィルが放った挑発的な言葉が、ショーンの逆鱗に触れてしまう[c]Everett Collection/AFLO

次のセッションでショーンは、知識があることと知っていることはちがうんだ、僕は君の知識には興味がない、それは図書館にいけばわかるだろう、だけど、君自身の話なら聞いてやる(榎本による台詞の要約)とウィルに迫ります。それは、まさしくウィルの急所を突く言葉でした。さらに、次のセッションでショーンは妻との劇的な出会いと、いかに彼女を愛していたかを語ります。つまり、カウンセラーのほうからまず自分を開示したわけですね。その時にショーンが語った妻との出会いのエピソードが秀逸で、またとても重要です。ショーンはずっと前から楽しみにしていたワールドシリーズの決勝戦を見に行く前にふらりと入ったバーで、ある女性に一目惚れし、チケットを友人に譲ってその女性とバーにいたと言うのです。ショーンは、球史に残るホームランを見逃すことになったのですが、まったく後悔していないと語る。

就職か、恋愛か...岐路に立たされるウィル

感情豊かな表情にも、思わず惹きつけられる
感情豊かな表情にも、思わず惹きつけられる[c]Everett Collection/AFLO

さて、この話を聞いているウィルはちょうど新しい恋をしています。相手は、ハーバード大学に通うスカイラー(ミニー・ドライヴァー)です。バーで出会うというのがショーンのケースに似ていますね。スカイラーはいかにも古典的な映画的美女ではありません。けれど、労働者階級のウィルを偏見なく受け入れ、かつウィルの悪友チャッキー(ベン・アフレック)らに下ネタを披露するなど、ノリがいいというか、不思議な魅力があるのです。このスカイラーと対照的な女性を他作品から探すと、思い浮かぶのは『あのこは貴族』(21、岨手由貴子監督)の主人公、榛原華子(門脇麦)でしょう。彼女は家筋のいい裕福な家庭の娘なのですが、そんな自分に相応しい相手でないといけないと決めてかかっています。居酒屋でデートなど無理、関西弁のギャグにギャグで返すようなスカイラーみたいなノリのよさは華子にはありません。

しかし、スカイラーは卒業と同時に西海岸へ行くことが決まっています。それをウィルが知ったときには、ウィルのもとには一流企業からのオファーが舞い込みはじめています。つまり、<ワールドシリーズの決勝戦(一流企業への就職)か未来の妻(スカイラー)か>という選択の葛藤が生まれているわけです。ここにきて、旧友同士だったランボーとショーンが疎遠になった理由もなんとなく想像がついてきます。ランボーは、ウィルの才能に見合った未来を選択させたい。しかし、これに対してショーンは懐疑的です。自分にとって一体なにが大切なのかはウィル自身に決めさせるべきだと、彼は主張します。つまり、ここで、このコラムでいつも取り上げている主人公の“欲しいもの”(want/need)問題につながるのです。

■榎本憲男 プロフィール
1959年生まれ、和歌山県出身。小説家、映画監督、脚本家、元銀座テアトル西友・テアトル新宿支配人。2011年に小説家、映画監督としてデビュー。近著には、「アガラ」(朝日新聞出版)、「サイケデリック・マウンテン」(早川書房)、「エアー3.0」(小学館)などがある。「エアー2.0」では、第18回大藪春彦賞の候補に選ばれた。映画『カメラを止めるな!』(17)では、シナリオ指導として作品に携わっている。


小説家・榎本憲男の炉前散語

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