カンヌ大熱狂!『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホが描く、進化したゾンビ映画『群体』をレビュー
2016年のカンヌ国際映画祭でお披露目された『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)から10年。21世紀のゾンビ・マスター、ヨン・サンホ監督の通算4作目となるゾンビ映画『群体(原題)』(英題:Colony)が、第79回カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニングス部門でベールを脱いだ。
文字通り深夜過ぎの上映開始となった、この新たなゾンビ映画のワールドプレミア(終わったら午前3時を過ぎていた)が行われたメイン会場、グラン・テアトル・リュミエールに2000人の観客が集結し大熱狂。ゾンビ映画の新基軸を提示したネクストレベルな本作は、個人的にも今年のカンヌのハイライトとなった。
ストーリーは次のとおり。バイオテクノロジーの教授、クォン・セジョンは、元夫に誘われ、ソウルの超高層ビルで開催される学会に参加するが、突如バイオテロが発生。凶暴な謎のウィルス感染者が増殖し、ビルはロックダウンされる。閉じ込められたセジョンたちは、人類は、生き延びることができるのか!?
本作の最大の特徴であり魅力がゾンビの進化である。ゾンビたちは体内の菌糸体で相互につながっており、交信し情報を共有しながら学習を重ね、進化をとげていく。そして人類の大いなる脅威となるのだ。モダンゾンビの祖、ジョージ・A・ロメロが定義した「リビング・デッド=生ける屍」というゾンビ像とは異なり、最初は本能的にただ人間を攻撃することしか能がないゾンビたちが進化し、時にコラボレート(合体)しながら、群体(colony)として襲いかかる恐怖。
21世紀初頭、『28日後...』(02)で走るゾンビが脚光を集め、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)で走行速度は加速し「走るゾンビ論争」が巻き起こったが、今度は知性を持ち集団として戦うゾンビである。それははたしてゾンビなのか?という疑問もあるかもしれない。しかしゾンビ同様にゾンビ映画も進化しているのだ。
現代のAI革命とグローバルな集団意識、それに伴う人類のコミュニケーション能力の低下と没個性(没人間性)というテーマを軸に、韓国の集団主義や、個人のアイデンティティの重要性を織り交ぜ、知性を備えたゾンビと少数派の人間たちがチームで対決するというこのゾンビ映画は、一見頭でっかちで堅苦しく感じるかもしれないが、ロメロ同様に現代社会に潜む恐怖を反映したメッセージが込められており、ヨン・サンホの過去のゾンビ映画と比べても、よりゾンビそのものにフォーカスしたパワフルな作品に昇華されている。
予測不可能な独創的な動きで、時にアクロバティックに切れ味鋭く攻撃を仕掛ける獰猛なゾンビたち(現代舞踊のダンサーたちが華麗に演じている)の姿は不気味なメイクも含めひたすら痛快で、エンターテインメント性に富んでおり、激しいカタルシスを生む。ジューシーなゴア描写も炸裂する。アクション一辺倒ではなく、サスペンスフルで緊迫感に満ちており、クライマックスではツイストも用意されている。もちろん人間ドラマと群像劇も描かれる(いじめっ子といじめられっ子の女子高生が同時に閉じ込められた結果どうなるか、という顛末も興味深い)。
血みどろの修羅場と化した隔離された極限下の巨大空間で人類とゾンビが戦う、という設定からして『ゾンビ』(78)なのだが(高層ビル内のショッピングセンターもメインの舞台の一つ)、同じくロメロの『ランド・オブ・ザ・デッド』(05)にも通じるド派手なゾンビ・アクションに仕上がっている。『ゾンビ』に次ぐロメロのゾンビ・サーガの一編『死霊のえじき』(85)で、ゾンビのバブは銃を手に取ったが、撃ち方はわからなかった。『ランド・オブ・ザ・デッド』のゾンビ、ビッグダディはマシンガンを撃った。『群体』では、進化したゾンビと銃の関係のその後も、しっかりと描かれている。実験で凶暴化した知性を持つ猿も登場し、ロメロの『モンキー・シャイン』(88)をも少し彷彿とさせる。さらに画期的なのが、ゾンビに襲われて人間からゾンビになる瞬間、その新生ゾンビは白い液体(菌糸)を吐き散らす。まるで『エイリアン』(79)のアンドロイド、アッシュのように。
キャストは、『猟奇的な彼女』(01)、『ベルリンファイル』(13)のチョン・ジヒョンが久々にスクリーンに復帰し、冷静で理知的な教授を大熱演。マッドサイエンティストを演じるク・ギョファン(Netflixシリーズ「寄生獣 ーザ・グレイー」、『新 感染半島 ファイナル・ステージ』)は、飄々とフットワーク軽くどこか憎めないトリックスター的な悪役を颯爽と演じており、いま韓国で最も勢いのある人気俳優の実力を見せつけてくれる(ヨン・サンホとの仕事もこれが3作目。よほど相性がいいのだろう)。
『群体』は、本国韓国ではすでに動員500万人を突破。大ヒットを記録中で、1000万人動員に向け順調に興行を進めている。日本では2027年に公開予定だ。
文/小林真里

