『関心領域』から『アン・リー/はじまりの物語』まで、衣装デザイナーが明かす「個人的なエゴを持たない」仕事の流儀
「ダンスや振り付けを衣装がどうサポートできるか、それこそが私たちの仕事の核心」
ミュージカル映画である本作において、衣装は単に美しいだけでなく、主演のアマンダ・セイフライドをはじめとするキャストが激しく踊れる実用性が絶対条件だった。カルピウクはこの難題を、バレエやオペラの衣装経験を持つ優秀な仕立て職人のチームと共に乗り越えた。「チームには、バレエやオペラの衣装も手がけている優秀なカッター(型紙・裁断担当の職人)がいました。彼女は動きを制限せずに18世紀の美しいシルエットを保つための特殊な裁断方法を熟知していました。ダンスや振り付けを衣装がどうサポートできるか、それこそが私たちの仕事の核心だったのです」。
主演のアマンダは、撮影現場に入る何か月も前からニューヨークでダンスの特訓を重ねていた。その練習ビデオを見たカルピウクは、息をのんだという。「古典的なミュージカルのステップではなく、激しく、時に野生的な、モダン・コンテンポラリー・ダンスでした。単なるシンプルな動きではないと気づいた時、衣装設計を徹底しました」。
特にシェーカー独自の激しい体の動きに対応するため、袖の付け根には腕を自由に上げられる特殊なカットが施された。プロのダンサーが演じる男性エキストラのパンツには、激しい踊りによる膝への負担を軽減する膝パッドを隠すため、少し長めの丈に特殊なゴムが仕込まれた。
さらに、衣装のメンテナンスという現実的な課題もあった。「素材にはすべて、簡単に洗濯や調整ができる天然素材を使用しました。ハンガーに掛かっている状態で見ると、ドレスはゆったりとした形をしています。しかし、特殊な留め方をして、私たちがこの映画のために仕立てた美しいアンダースカートを重ねることで、18世紀特有の美しいボリュームとシルエットが一瞬にして立ち現れるのです。着やすく、脱ぎやすく、洗濯もしやすい。それでいて、最高に快適に踊ることができる仕掛けになっています」。
「知識を極限まで蓄えたからこそ、私たちは自分たちの直感を信じて動くことができた」
カルピウクのキャリアを語るうえで、重要な作品がある。ジョナサン・グレイザー監督の『関心領域』は、彼女の映画制作における常識を覆し、得難い経験をもたらした。「ポーランドのプロデューサーから誘われ、ジョナサンと何度か言葉を交わして参加を決めました。この映画の制作は本当に困難で、同時に信じられないほど美しいものでした。あのユニークなプロセスは私の心に一生残り続けるでしょうし、おそらく今後のキャリアでも二度と巡り合えない種類のものでしょう」。
グレイザー監督は、最初の段階から「これは通常の映画の現場にはならない」と宣言していたという。撮影監督のウカシュ・ザルが仕掛けたシステムは、家の中や庭のいたるところに無数のカメラを隠し、360度すべてが常に映し出されているという、映画界の常識を覆すものだった。
「まるで『ビッグ・ブラザー』(1999年にオランダで放送されたリアリティショー)のような状況でした。通常のセットのような狭い空間ではなく、すべてが可視化されていました。ジョナサンのカットは果てしなく長く、時には俳優たちの即興劇がそのまま続けられていました。衣装デザイナーとしての困難は、いつなにが起きても、どこが映ってもいいように、あらゆる事態に完璧に備えていなければならなかったことです」。
妥協を許さないグレイザー監督との共同作業は、カルピウクにクリエイターとしての純粋な境地を要求した。「あの映画で私たちが下したすべての決断は、徹底的な知識に基づいたものでした。知識を極限まで蓄えたからこそ、私たちは自分たちの直感を信じて動くことができたのです。そこには、衣装デザイナーとしての個人的なエゴは一切ありませんでした。『この色が良い、あの色が見栄えがする』といった会話すら、一度もしなかったのです。問いかける必要すらなく、ただ全員が『これしかない』と知識から理解していました。時に苦痛を伴うほど厳しいプロジェクトでしたが、だからこそ、余計なエゴの削ぎ落とされた、真に美しいストーリーを共に構築できたのだと信じています」。
歴史のディテールに対する深い畏敬の念と、演出やダンスといった現代の映画的ダイナミズムへの完璧なアプローチ。マルゴザタ・カルピウクの紡ぐ衣装は、単に時代を再現する道具ではなく、登場人物たちの魂の軌跡そのものを雄弁に物語っている。
取材・文/平井伊都子
