上映時間“89分”の美学。チンパンジー×狂犬病『おさるのベン』監督が語る、ホラー映画を怖くする秘訣「すべてを削ることから始める」
「ホラー映画はわずかな上映時間の差で決まる」
ロバーツ監督のフィルモグラフィを見ると、ほぼすべての作品に2つの共通点が見受けられる。一つはすべてがホラージャンルであること。そしてもう一つは、90分前後で完結するタイトな作りをしていること。唯一の例外は『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』だが、それでも107分。「特に『海底47m』や『おさるのベン』のようなワンシチュエーションの映画は、タイトな時間枠のなかで成立する必要があると考えています」と、ロバーツ監督はその理由について説明する。
作家性の強い監督と商業的な面を重視するプロデューサーが、映画の長さをめぐって対立するという話は、映画界ではよくあること。その場合、プロデューサー側が作品をより短くするよう要求するのがほとんどだが、ロバーツ監督は「私がプロデューサーと戦うならば、それは長くするためではなく短くするためです。もし私が“ディレクターズカット”を作るなら、絶対に短くします。長くなることはありません」と断言する。
そして、「私は作品を編集するにあたり、すべてを根こそぎ削ることから始めます。そのあとで、必要だと感じた部分だけを徐々に戻していくのです。ホラー映画においてはわずかな上映時間の差で成否が決まる。ちょうどいま『海底47m』シリーズの第3作にプロデューサーとして関わっているけれど、監督のパトリック・ルシエに『もっと短く』『これはいらないよ』『もっとノンストップのジェットコースターのような展開に』と指導しなくちゃならないんだ」と笑いを浮かべていた。
まさにホラー映画に精通した作り手であるロバーツ監督だが、それゆえの悩みもあるようだ。「普段ホラー映画を観ると、すごく退屈してしまうんです。トリックも作りかたも大体全部把握しているので、純粋に映画に入り込むことがとても難しい」。それでもどうしても忘れ難いホラー映画体験として挙げるのが、いち時代を築いた“Jホラー”の代名詞である『リング』(98)だったという。
「当時イギリスではほとんど上映されていなかったので、少し経ってからVHSで鑑賞しました。怖がらせ方からテンポの取り方まで、本当にゆっくりと不気味で美しくて、妙に不安な気持ちになったのをいまでもはっきりと覚えています。ホラー映画の新たな世界を見た気がして、可能な限り多くのことを吸収しようとしてきました。だから『リング』は私のホラー人生の永遠の基準です。貞子がテレビから出てくるシーンの衝撃は、死ぬまで忘れることはないでしょう」。
文/久保田 和馬
