【ネタバレあり】ナオキマンがひも解く『ブゴニア』に隠された真意…陰謀論に対する考えを揺るがす革新性
「人類はこの葛藤をなんだかんだ乗り越えられる気がしてます」
「また、テディが頭のおかしい人であると見ればただの誘拐犯ですが、彼の訴えることが本当であれば地球を救わないといけないと思えてくる。その2つを行き来している点が巧いですね」。そう、頭のおかしい陰謀論者と頭の切れる女性CEOの駆け引き――巧妙な演出のうえでそう信じていた物語が、ラストのクライマックス展開を前にとんでもない方向へ転がっていく。すったもんだの大騒動の果てに、観客が知るのは…。
ネタバレアリの記事とはいえ、物語のラストを具体的に紹介するのは自重するが、ナオキマンは次のように語る。「僕はこの映画を見終わって、奇跡のリンゴと言われている木村秋則さんという農家の方のお話を思い出しました。ご存知ですか?」。「奇跡のリンゴ」…聞いたことがあるような。そうだ、たしか実話を基に、阿部サダヲ主演で映画化された作品がそんなタイトル!と編集Aは思い出した。「僕は木村さんに会ったことがあるんですけど、本人曰く宇宙人に何回もさらわれているらしいんですね。で、宇宙人が言うんですって。『この世界のことはもう解読してるから、お前ら本当にしっかりしないと、ボタン一つですべて終わらすぞ』って」。
調べてみると、木村秋則さんは農薬が原因で奥さんが体調を崩したことをきっかけに、完全無農薬でのりんご栽培に取り組んだ農家の方だ。そういった背景まで母親が治験で昏睡状態になったテディと酷似しているじゃないか。ここまで実在の人物とリンクしているなんて…。ということは、地球を大切にせず、欲に憑かれ、言い争いを繰り広げている愚かな人類の行く先は…。
しかし、ナオキマンは「僕は、希望は常に持ってます。ジャンプ主人公思想なんで」と絶望した編集Aに救いの手を差し伸べてくれた!「いまも世界で戦争が行われてますけど、人類はこの葛藤をなんだかんだ乗り越えられる気がして。こうやって活動してみんな生きてるってことは、乗り越えられる試練なんだと思うんです。なので、希望は常に抱いてますね。本作を見ていて感じたのは『すべてはお前ら人間次第なんだよ』という問いかけです。誰かのせい、なにかのせいにせず、課題を解決していくことが、いまを生きているひとりひとりに必要なんじゃないでしょうか。金持ちのせいにするなよ!ミシェルのせいにするなよ!自分たちの問題は自分たちで解決しろ!そういうことなんだと思います」。なんと壮大な人類に向けたメッセージなんだ!「問題に向き合え、乗り越えろ!」ナオキマンの解説で、すっかり本作の深みにはまってしまった編集A。
「テディのような疑問を抱く人は必要だと思います」
一方で、「陰謀論を全否定もしていないのが、この映画のいいところ」とナオキマンは続ける。「世界には地球を破壊しかねない、様々な問題があります。農薬もそうだし、太陽光パネルもそうですね。そういうことを世界に気づかせるうえで、テディのような疑問を抱く人は必要だと思います」。テディがとった方法は人道的に見ても決して褒められたものではないが、彼のような問題提起のきっかけとなる役割が必要なのも、また事実なのだろう。実際に、テディ役を演じたジェシー・プレモンスは本作のインタビューの中で「多くの人が陰謀論に染まっていく時、その人のなかに恐怖心を起こしている“種”自体は、誤りではない」と語っている。テディは信念も手段も強引で、筋金入りの変人のようにもみえるが、実は彼を突き動かしている怒りや恐怖心は極めて現実的なものなのだ。
「陰謀論者はヤバいやつ。だからこそテディが悪に違いない」と思い込んでいた編集Aだったが、知らぬ間に植えつけられた先入観による、偏った見方だったことに気づかされた。ここまで陰謀論サスペンス、風刺の効いたブラックコメディ、社会派ドラマ、終末談など、様々な側面を読み解いてきた。しかし裏を返せば、それだけ情報量が多いということ。「なんだか、見逃してしまった部分も多い気がしてきました」と、編集A。すると「結末を知って、改めて観直すと、また違った見方ができるかもしれません」とナオキマンもリピート鑑賞すればもっと本作のおもしろさを追求できるはず、とプッシュ。
「ヨルゴス・ランティモス監督の作品は以前の映画もそうでしたが、シンボルを多く入れこんでいます。本作でいえば、ミシェルが経営する会社のコーポレートロゴには三角形が用いられています。フリーメイソンとかイルミナティとかも、三角形に目ですよね。大体、陰謀論が絡む組織が使うモチーフなですよ」。「ええ、全然気づかなかった!」と感嘆の声をあげる編集A。これは、本作の結末を考え直すためにも、見逃したであろうシンボルを見つけるためにももう一度観に行くしかないな!と決意した編集Aだった。
最後に、ナオキマンが本作に興味を抱く人たちへこんな言葉を贈ってくれた。「巨大な権力が、あるいは別の生命体が彼方からやってきて皆さんを支配しているのか…この映画を観たら、ある種その答えにちょっとだけ近づけるかもしれないですね。物語を深いところまで読み取れたら、本当に戦うべき相手も見えてくるんじゃないでしょうか」。前代未聞の誘拐サスペンスには、二重三重のサインがある。何度も味わって、その謎を解いてみてはどうだろう?
取材・文/相馬学

