「絶対に調べないほうがいい…」都市ボーイズ・岸本誠、『おさるのベン』で想起したヤバい事件と愛情という“呪い”
「愛着は“念”になって、やがて呪物となる」
「都市ボーイズ」としての活動のなかで、様々な恐怖と対峙してきた岸本。本作のベンのように、愛着のある存在が突然豹変してしまう現象は、決して珍しいものではないようだ。「可愛がっているものとか、誰かからすごく愛されてきたものこそ反転しやすい。その代表的なものは、やはり人形だと思います。あれは呪物の宝庫です」。
そう語りながら、アメリカに実在する「ロバート人形」の事例を挙げる。『ロバート 最も呪われた人形』(15)として映画化されたこともあるロバート人形は、「死霊館」シリーズで描かれた「アナベル人形」と双璧をなす“呪いの人形”。「元々はユージーンという少年が可愛がっていた人形でした。でもそれを持っていると怪奇現象が起きつづける。ある時、両親が危険を感じて棺のようなものに入れて屋根裏部屋に隠しても収まらない。今度は燃やして灰にするのですが、次の日の朝食の席ではユージーンの隣にその人形がいて…」。
「愛情というものは、過剰になればなるほど周りが見えなくなっていく。それに自分で気がついて、捨てに行ってもなぜか戻ってきてしまう。一説には、無意識に取りに戻っているともいわれています。そういう愛着が“念”となって、やがて呪物だとか呪いだとか言われるようになるのです。実際にそういったものを取材してみると、大半は当の本人が過剰に“そう思い込んでいる”だけ。客観的に見たら、実はさほど変なことが起きていなかったりするので、僕はなるべく入り込みすぎないように心掛けています」。
劇中に登場するベンは、言語学者だった主人公たち一家の亡き母が研究のために連れてきて、赤ん坊のころから家族として育てあげてきた存在。そのためルーシーや妹のエリン(ジア・ハンター)、父アダム(トロイ・コッツァー)はベンに深い愛情を注ぎ込んでいる。「だからこそ終盤、アダムが娘たちを守るために迷いなくベンに立ち向かっていく姿には驚かされました。人間は、意外とこういう時に切り替えが早い生き物なのかもしれません。その豹変ぶりも逆に恐ろしい。いざという時に別の大切な存在と天秤にかけて、自分の命を引き換えにしてでも行動する覚悟を持つ。動物を飼うならば特に必要なことなのかもしれません」。
「もし主人公たちと同じシチュエーションに直面したら?」と訊ねてみると、「そもそも自分よりも強い動物を飼うなんてもってのほかです(笑)」と岸本は即答する。「仮にああなった時は、たぶん一番関係性の薄い人を犠牲にしている隙に助けを求めると思います。でもチンパンジーとか、ゴリラとかライオンとか、とてもじゃないけど怖くて近づけないです。最近よく動物が人間を襲う動画がSNSなどでも流れてきますが、絶対に観ないほうがいいです。動物にまつわるヤバい事件も、絶対に調べないほうがいいです…」。
最後に岸本は、本作のように愛着のある存在が豹変していく題材はいずれ、動物からAIなどの身近なテクノロジーへとシフトしていくと推察する。「この先、こうやって動物の恐ろしさを見せてくれる映画は少なくなってくるかもしれません。でも対象が変わっても共通しているのは、『自分がよくわからないからといってナメてかかったら、絶対に痛い目に遭う』ということです」。
そして「幸いにも、本作は島のはずれにある外界から隔絶した場所に暮らす一家の物語なので、どこか他人事として観られる安心感があります。でもきっと、“動物って怖いんだ”とあらためて思い出すことになる。そういう意味で、これは“トラウマ映画”になりそうな影響力を持っている作品だと感じます。先入観なしでふらっと劇場に行って、ちょっとしたトラウマを体験してみるのもいいかもしれませんね」
文/久保田 和馬
