東日本大震災から15年、映画『宣誓』に込めた柿崎ゆうじ監督&前川泰之の覚悟「自衛隊と被災者の想いを風化させたくない」
映画『宣誓』(3月6日公開)の完成披露舞台挨拶が2月10日に神楽座で行われ、柿崎ゆうじ監督、前川泰之、竹島由夏、黄川田雅哉、出合正幸が出席した。
本作は、映画『陽が落ちる』(24)で武士の妻、夫婦の覚悟に焦点を当てた重厚な人間ドラマを描き高い評価を得た柿崎監督が描く、“喪失”と“再生”の物語。東日本大震災の被災地を舞台に、自衛隊員の春日三尉(前川)が、両親を亡くし心を閉ざした少年・和樹(齋藤優聖)と出会い、春日は少年に、少年は春日に、寄り添い合うようにして再び“生きる力”を取り戻していく姿をつづる。
上映後の会場から、大きな拍手で迎えられた登壇者陣。東日本大震災から15年が経ったいま、当時の自衛官と被災者の姿を映画に刻んだ面々が、熱い想いを口にした。
柿崎監督は、「あの時に身を粉にして戦った自衛隊、そして被災者の方々の想い、志を風化させたくないという想いで映画を作りました」と吐露。主演の前川も柿崎監督の言葉に共鳴しつつ、「この物語はフィクションですが、実際にあったエピソードを紡ぎ合わせて作られた物語です。嘘だけはあってはいけないという覚悟で、臨ませていただいた」と力強く語った。春日の同僚の女性自衛隊員、佐藤を演じた竹島は「あの時にたくさんの方が大きな悲しみを抱えましたが、そこで希望を見つけ、寄り添い合い、絆を作って前に進んだ方々の想いは、いまの私たちが残して、紡いでいかなければいけない」と使命感を握りしめ、本作を通して「震災を忘れないという想いが、皆さんに伝わったらうれしい」と希望。
同じく自衛官役に扮したのが、黄川田と出合だ。「3.11をテーマにするというのは、とても勇気のいることだと思います」と切り出した黄川田は、「監督のこの作品にかける誠実な想いや、自衛隊の方々がどれだけ命を削っていたのかというお話を聞いて、ぜひ参加させていただきたいと思った」と語りつつ、エンタテインメントの世界で生きる人間として「ああいうことがあって、芝居を続けていていいのだろうか。もっと違うことができるのではないかと日々悩んだ」と当時の複雑な心境を回想。しかし完成作を観て「僕自身、『映画の力というのはすごいものだ』と励まされ、勇気をもらった」とまっすぐな瞳を見せた。出合は、初の自衛官役だと語りながら「極力、しっかりと自衛官として生きたいと思った。監督に指示を仰ぎながら、スタッフさんのご協力のもと、キャスト一同、そういった想いで一生懸命に撮影しました」と自衛官への敬意を胸に、一丸となった撮影を振り返っていた。
『陽が落ちる』でも忘れ難い存在感を示した前川が、東日本大震災の被災地で、自身も津波で妻と幼い娘を失いながら、任務に立ち続ける自衛隊員・春日三尉を演じた。事実として、自身の家族が行方不明になるなか、災害派遣の任務に向かった自衛隊員もいたという。
柿崎監督は、「自分の苦しみ、つらさを抱えながら働いている男の姿を、前川さんに演じていただきたいと思った。前川さんには、父親であり、自衛官でもあるという両面をすばらしく演じていただいた」と前川の演技を称えた。前川は、「僕の長男が、今年の3月で15歳になる。震災直後に生まれた」とのこと。「息子の誕生日が来るたびに、家族で『あの時はこうだったよね』と振り返るようにしている。震災に対しての強い思い出が、残っている。ただその後、被災地のためになにかできたかというと、そういうこともあまりなくて。ずっとそれが気かがりだった」と正直に胸の内を明かし、「この作品に関わらせていただいて、被災地の方のために残せるものを作れたとしたらよかったなと思う」としみじみ。役作りに関しては、「自分も父親であり、夫であり、家族を失うつらさは想像できるものもある。撮影前には、震災で家族を亡くされた方の記事やインタビューを集め、自分のなかに取り込み、膨らませていった」と入念なリサーチを経て、春日という“痛みを隠すようにしながら任務に身を捧げる”キャラクターを作り上げたという。
そして柿崎監督は、竹島が演じた女性自衛隊員・佐藤についても「自衛隊としてのリアリティやディテール」を大切にしていたとコメント。「『女性自衛官ならではの特徴を出したい』ということで、竹島さんはクランクイン前に女性自衛官の方にお会いして、話を聞く機会を作っていた。努力をして、役に寄り添ってくれた」と竹島に感謝を伝えた。
竹島は、「佐藤は、小隊陸曹という役割を持っているキャラクター」と紹介。「春日さんの右腕となって支えつつ、もし春日さんが間違った方向に行きそうになった時には、軌道修正をして正しい道に導いていく役割がある。そういったことも、自衛官の方に取材して初めて知りました。実際の自衛官の方から、佐藤というキャラクターの立ち位置や任務、責務についてもお伺いして、さらに役を深く掘り下げることができました」とこちらも、本物の自衛官の存在が役作りの助けになったと話す。女性自衛官と触れ合うなかでは「とても責任感と正義感が強く、まっすぐな方ばかりだった。そういった佐藤を作り上げないと、自衛官の方には納得していただけないだろうなと思った。忠実に表現できるよう、努力させていただいた」と熱を込めた。
続けて、竹島は「前川さんが、春日というキャラクターとリンクした。前川さんが隊長となって、私たちを引っ張ってくれた」とも。
すると前川は「春日にあって僕にないものは、リーダーシップ」と照れ笑い。「自分はリーダータイプではないと思っているんです。ただ今回、映画やドラマの主演というのは初めての経験。主演をやらせていただくうえでは、人間としても役者としても、現場を引っ張っていかないといけないと思った。周りにも目を配り、コミュニケーションもきちんと取っていこうと意識していました。自分にない、リーダーシップを絞り出した」と腹をくくって取り組んだと語ると、柿崎監督は「クランクインの時に、自衛官役の俳優たちを集めて『今日から俺たちは、小隊として生きていくぞ』と円陣を組んでいた。さすがだなと思いました」と前川と春日というキャラクターが、見事に重なっていたと太鼓判。「ありがとうございます」と一礼した前川は、「実際にあったことをベースに、描いていく物語。『一致団結して、俺たちにやれることをやりきろうぜ』と伝えたかった」と円陣は、決意の表れだったと述べていた。
柿崎監督と前川、竹島が証言したように、本作では、陸上自衛隊の全面的な協力のもと、震災当時の現場に限りなく近い緊張感と空気感を映し出している。柿崎監督によると、劇中では映ることのない下着まで「駐屯地の売店で、隊員の方が買っているものと同じものを買って。靴下や下着に至るまで、自衛官の着ているものをしっかりと身にまとっていただいた」と徹底的にこだわり抜き、「衣装や道具はすべて、陸上自衛隊から本物をお借りしている」という。
「クランクイン前に、隊員服の着方や敬礼の仕方を学んだ。でもどうも、うまく着られなくて…」という黄川田は、困った時にはいつも前川が教えてくれたそうで、これには前川が「子どもか!」とツッコんで会場も大笑い。前川は「(敬礼の時に)ちょっと指が反っちゃうんだよね。そういった普段からの身だしなみや指の揃え方など、すべてがきちんとしているからこそ、有事の時にも統率が乱れない」と発見があったと話す。
また柿崎監督から「彼は、この映画の撮影が終わった後、予備自衛官補になったんですよ」と、出合の意外な現状が公開されるひと幕もあった。予備自衛官補とは、予備自衛官になるための教育訓練を受ける制度。出合は「予備自衛官制度というものがあることは知っていたんですが、『この年齢では無理だろう』と思っていた。そうしたところ、ある自衛官の方から『法改正があって、52歳までいけますよ』と聞いて。速攻、応募しました。倍率は結構高くて、3倍くらいだったんです。一応通ったので、いま訓練中です」と笑顔。前川が「役者は引退される?」と冗談混じりに口を挟むと、出合は「やりながらです!」と応じつつ「春日小隊長の今後が描かれる可能性があるかもしれないので、『その時にはもうちょっと頑張れるように』という役作りでもある」と続編に期待していたが、柿崎監督は「続編はないと思います」とバッサリ。息の合ったやり取りに会場からも笑顔がこぼれるなか、柿崎監督は「自衛隊の作品は、また撮りたい」と意欲をのぞかせていた。
それぞれが、本作に注いだ覚悟と情熱を打ち明けたこの日。最後に前川は、「復興というのは形だけではないし、個人の問題になってくると思うので、なかなか難しいことではある。でも絶対に風化させてはいけないと思うし、自分たちの記憶から薄れさせてはいけないと思うので、この映画をたくさんの人に観ていただきたい。僕ら全員の熱い想いが乗った作品です」とメッセージ。柿崎監督は「自分たちが映画を撮れるのも、俳優が芝居をできるのも、明日がやってくるのも、未来を作って、守ってくれる人たちがいるから。それを忘れてはいけないと思います。また震災によって行方不明になった方が、まだいらっしゃいます。最後のお一人が帰って来られるまで、決して忘れてはならない。現地の想いをしっかりと背負いつつ、この映画を通していろいろなことをお伝えできれば」と真摯な想いを語り、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝
