『言の葉の庭』から長編初監督作『花緑青が明ける日に』へ。四宮義俊が生み出す“四宮グリーン”と心を震わす作劇
さらに『君の名は。』と同年公開の『この世界の片隅に』(片渕須直監督)にも参加。こちらは主人公・すずが少女時代に描いた水彩画が動き出すシーンを手掛けている。
このほかインドネシアで放送・配信されたポカリスエットのCMや、眉村ちあきの『冒険隊 ~森の勇者~』のMVなども手掛けており、今回長編を初監督することになったのも、至極必然的な流れであったことがわかる。
『水槽の虎(Fudge Factor)』がそうであったように、四宮の作品には「水」と「森」がしばしば登場し、「淡い緑の光」が世界に満ちている。この“四宮グリーン”ともいうべきルックこそ、四宮作品の刻印といえる。タイトルに「緑」の文字が含まれる『花緑青が明ける日に』ももちろん、“四宮グリーン”に満ちた世界である。
果たして『花緑青が明ける日に』はどのような作品なのか。そこを想像する上で特にポイントになると思われるアニメーション作品がある。それが2018年に発表された短編『トキノ交差』だ。四宮は監督・絵コンテ・演出・キャラクターデザイン・作画監督・美術監督をひとりで担当。また同時に、アニメーション作家としては個人制作がメインだった四宮が、監督として商業アニメのスタッフと本格的にタッグを組んだ作品でもある。
『トキノ交差』が上映されたのは、渋谷のスクランブル交差点。交差点に面した4つの大型ビジョンを連動させ「アニメ屏風」を展開するという企画として制作されたものだ。「トキノ交差」は現在、YouTubeで、YouTube ver.を見ることができる。
上映時間はわずか1分強。しかし、そこには四宮の作家としての魅力が凝縮されて詰め込まれている。四宮は渋谷の交差点という舞台に載せる物語として、「人間の功罪を含めた遠大な歴史と生物的な衝動」(※)を「俯瞰して見続けてきた土地の表情そのもの」(※)こそがふさわしいと考えた。そこから、ひとりの女性が宙返りをする一瞬の間に、その土地の持つ1万年の歴史を圧縮して描き出すという発想で作品を作り上げた。
淡いグリーンのパーカーを着た女性。彼女が宙返りを始めると、そこに太古の森が現れ、そこから一気に長い時間が流れ始め、現在へと近づいていく。そこには太平洋戦争も、東日本大震災の後の計画停電の様子も、象徴的に描き出されている。そして最後は、落ちていくブーツが水の中へと沈んでいくイメージが現れ、カメラは現在の現実へと帰還する。「森」と「水」という四宮作品に欠かせないモチーフに加え、やはり淡い緑の光が基調をなしている作品だ。
また本作に投影された自身の個性について、四宮は次のように語っている。「たとえば花鳥風月、動植物といった季節感みたいなものに自分の特色が現れているのかなと。特に緑の表現は、記号化された森にはならないようにしました。樹皮や、植物の種類が同定できるぐらいの気持ちで描いているつもりです。昔からアニメーションに対して、木や草は、もう少し幅が出せるんじゃないかという思いはあったんです。まあ、日本画家というよりは、自分の画作りの問題だと思うのですが、キャラクターも含めて『触れそうな質感』みたいなものが割と好きかな、と」(※)
『トキノ交差』に見られた様々な要素は、『花緑青が明ける日に』にそのまま受け継がれている。そして新たな要素としてそこに、「子供時代」という繭から羽化しようとする、若者たちの物語が加わっている。3月の公開時には、“四宮グリーン”に包まれた美しい世界と、瑞々しいドラマを是非楽しんでいただきたい。
※四宮監督の言葉は『トキノ交差』の原画展に併せて制作された冊子「NOTE -SHIBUYA VARNACULAR- OFIICIAL GUIDE BOOK」に掲載されたもの。
文/藤津亮太 構成/編集部

