難航したキャスティングに“トラウマ映画”たる所以…『レクイエム・フォー・ドリーム』が後世へ与えた影響をトリビアで探る
今敏監督作『PERFECT BLUE』からの影響
●元ネタは『PERFECT BLUE』
ヘロインの入手が困難になり、ついには体を売り始めたマリオン。彼女がバスタブに頭を沈め水のなかで叫ぶ一連の流れは、坂道を転がるように堕ちていくマリオンの心情を描いた名シーンの一つである。このシーンの元ネタが、今敏監督の長編アニメデビュー作であるサイコスリラー『PERFECT BLUE』(97)だ。女優への転身を強いられたアイドルの葛藤を描いた同作で、主人公がヘアヌード写真集の撮影後、バスルームで叫ぶシーンがあるのだが画角を含めマリオンのシーンとまったく同じ。
今監督は来日したアロノフスキーとの対談で、『PERFECT BLUE』のオマージュだと聞かされ、自分のコンテ通りにジェニファー・コネリーが演技をしていることに大喜び。サラが赤いドレス姿で幻想世界に迷い込むくだりも『PERFECT BLUE』の赤い衣装からインスピレーションを得たという。
幻想的な映像世界とドラマチックな音楽
●ストーリーやテーマを支える多彩なビジュアル
凝った映像テクニックで知られるアロノフスキーの信条は、ストーリーやテーマを支えるためのビジュアル。『π』に続いて撮影監督マシュー・リバティークと組んだ本作では、画面を左右分割するスプリットスクリーンやスロー&クイックの可変撮影、超広角レンズを使ったり、水平線を傾けるなど、独特の映像でヘロインに溺れたハリーたちを描いている。
なかでもトレードマークになったのが、ヒップホップ・モンタージュ。フレーム単位の短いモンタージュをつないだ映像で、ヘロインを打った次の瞬間、血液との混合や瞳孔の収縮などの肉体への影響を表現している。アップテンポで小気味よい見せ場だが、しだいに怖さが増していくのがポイント。おかげで本作の総カット数は、通常のドラマ映画の約3倍にあたる2000カット超に膨れ上がった。
もう一つ、本作で特徴的なのがスノーリーカム。俳優の体に固定した小型カメラを使った撮影で、なにか動作をすると顔が固定されたまま背景が上下左右に揺れるため、高揚感や喪失感など感情表現が強調される。体を売って帰宅するマリオンや、テレビ局を探して薄いドレスに裸足のまま冬の街へさまよい出たサラの描写などに用いられた。
●映画を超えて愛されたドラマチックな劇伴
公開から25年を経ていまだ語り継がれている本作だが、そのサウンドトラックも時代を超えて愛されている。なかでも『レクイエム・フォー・ドリーム』という枠を超え浸透している楽曲が「Lux Aeterna」。金を借りるため精神科医と寝たマリオンが、雨に打たれながら帰るシーンのために書かれた劇伴だ。弦楽四重奏によるドラマチックなこの曲は、その後、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(02)や『ダ・ヴィンチ・コード』(06)、『マイ・ボディガード』(04)などの予告編で時に編曲を加えながら使われている。
もともとこの曲はヒップホップ調になる予定だったが、マリオンの感情の重みを出すためアロノフスキーの提案で弦楽四重奏に変わり、時代を超えて愛されることになった。その音楽は、『π』や『レスラー』、『ブラック・スワン』『ノア 約束の舟』(14)でも組んだクリント・マンセルが手掛けている。
