難航したキャスティングに“トラウマ映画”たる所以…『レクイエム・フォー・ドリーム』が後世へ与えた影響をトリビアで探る

難航したキャスティングに“トラウマ映画”たる所以…『レクイエム・フォー・ドリーム』が後世へ与えた影響をトリビアで探る

『レスラー』(08)や『ブラック・スワン』(10)、『ザ・ホエール』(22)など賞レースを賑わす超個性派作品で知られるダーレン・アロノフスキーの初期作品『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)が4Kリマスターでスクリーンに帰ってきた。ドラッグに溺れ壊れてゆく人々を容赦なく描き、“トラウマ映画”としていまだ語り継がれる衝撃作。25年の時を経て復活した本作のトリビアを紹介したい。

ニューヨーク・コニーアイランド。未亡人サラ(エレン・バースティン)のテレビを質に入れてはドラッグに明け暮れる息子ハリー(ジャレッド・レト)は、かさ増しヘロインで大金を稼ごうと計画。恋人マリオン(ジェニファー・コネリー)、親友タイロン(マーロン・ウェイアンズ)と麻薬の密売を開始する。一方、サラのもとにTVショーへの出演の話が舞い込んだ。お気に入りのドレスで出演しようと考えたサラは、ダイエットを開始する。

原作者ヒューバート・セルビー・ジュニアも脚本作りに参加

●憧れの作家とのコラボレーション
アロノフスキーは本作の原作「夢へのレクイエム」の作者ヒューバート・セルビー・ジュニアの大ファンだった。出会いは大学1年の時に図書館で読んだ「ブルックリン最終出口」で、その世界観に魅了された彼が在学時に最初に撮った短編もセルビーの同名短編を基にした『Fortune Cookies』(91)。

一方のセルビーは本作が動きだす前から「夢へのレクイエム」の映画化を構想しており、アロノフスキーから映画化の打診を受けた際には脚本作りに参加。囚人をあざ笑う刑務所の看守役でカメオ出演も果たしている。なお登場人物の状況に合わせて「夏」「秋」「冬」と3つのパートに分ける構成は、ロマン派の画家ゴヤが狂気や不安を題材に描いた「四季」の連作をモチーフに、アロノフスキーが提案したものだ。

●挫折した小説からのスタート
本作の企画が生まれたのは1997年のこと。『π パイ』(98)の編集中、アロノフスキーの部屋を訪れたプロデューサーのエリック・ワトソンが本棚にあった「夢へのレクイエム」を目にしたのがきっかけだった。当のアロノフスキーは暗く残酷な展開に耐えられず、途中で挫折したまま。本を借りたワトソンはその内容に衝撃を受け、アロノフスキーに映画化を持ちかけ『π』の完成後に着手することにした。もしもワトソンが「夢へのレクイエム」に興味を示さなかったら、『レクイエム・フォー・ドリーム』は生まれなかったかもしれない。

名だたる演技派たちが出演を辞退

●オスカー俳優たちの役作り
ジャレッド・レト、ジェニファー・コネリー、エレン・バースティンというアカデミー賞俳優が主要キャストを務めた本作(撮影時の受賞者はバースティンのみ)。レトは役作りのため11kgも減量し、実際のヘロイン中毒者と交流することで彼らのしぐさや動作を会得した。コネリーもまた撮影前に原作の舞台ブルックリンでの生活を体験。マンハッタン暮らしのバースティンもブルックリンで暮らす女性たちと会い、話し方や人生観を役に生かすなど、それぞれのアプローチでリアルなキャラクターを作り上げたという。

ジャレッド・レト演じるハリー
ジャレッド・レト演じるハリー[c] 2000 Requiem For A Dream, LLC. All Rights Reserved. 

●難航したキャスティング
ドラッグ地獄を描いた作品はキャスティングも難航した。製作陣は当初ハリー役に『ロスト・イン・トランスレーション』(03)や「テッド」シリーズのジョヴァンニ・リビシにオファーしたがNG。プロデューサーのワトソンによると、その後トビー・マグワイア、エイドリアン・ブロディ、ホアキン・フェニックス、リビシにも脚本を送ったが返答もなかったという。マリオン役も「スクリーム」シリーズで90年代を代表するホラークイーンになったネーヴ・キャンベルをオファーしたが、汚れ役のため辞退。サラ役もフェイ・ダナウェイらをオファーしたが断られたという。容赦ない展開や描写に、社会派で知られる俳優たちもリスクが大きすぎると判断したようだ。

ジェニファー・コネリー演じるマリオン
ジェニファー・コネリー演じるマリオン[c] 2000 Requiem For A Dream, LLC. All Rights Reserved. 

●リアルな特殊メイクによる肉体改造
減量に打ち込み、やせ薬に溺れていくサラ。彼女を演じたバースティンの変貌していく体型には、特殊メイクが用いられている。映画の序盤は衣装の下に18kgあるファットスーツを着用し、首元にはたるみを装着。やせ始めたあとは9kgのスーツに変え、続いて素の状態、さらに終盤のシーンのために4.5kgの減量も行ったという。この迫真の演技でバースティンは第73回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。アロノフスキーのファットメイクといえば『ザ・ホエール』を思い浮かべる人が多いだろうが、本作のリアル系メイクも要チェックだ。

ダイエット薬として処方された薬が覚醒剤だったことから依存症に陥っていくサラ
ダイエット薬として処方された薬が覚醒剤だったことから依存症に陥っていくサラ[c] 2000 Requiem For A Dream, LLC. All Rights Reserved.