映画『夜勤事件』は原作ゲームファンも納得の“再現度”!気鋭のスタジオ「チラズアート」の魅力をゲームライターが徹底解説
注目のゲームスタジオ「チラズアート」とは?
チラズアートが制作するゲームの特徴には、上記で触れたような要素のほかにも、少人数運営ならではの短期間での開発&リリースによる多作ぶり、低価格設定と動作環境の軽さ、カジュアルに遊べるプレイ時間など、様々なポイントを備えている。ここからは、いくつかの人気タイトルをピックアップして、スタジオ作品の持つ魅力についてさらに深掘りしてみたい。
まずは、初期作品のなかから2019年発売の「赤マント」、「犬鳴トンネル」を紹介しよう。「赤マント」は、白い仮面を着けた怪人“赤マント”にまつわる都市伝説をモチーフにした和風のサバイバルホラーゲーム。チラズ作品の顔ともいえる、あえて画質を粗くしたローポリグラフィックが採用されており、独特の不気味さが味わえる。また、深夜の学校を舞台にした探索は、アイテムの所持数やセーブ回数の制限などにより難易度が高く、怪人にいつ遭遇するかわからない予期せぬ恐怖を描きだしている。
「犬鳴トンネル」は、福岡県に実在する心霊スポット「旧犬鳴トンネル」を舞台にしたホラーゲーム。当地を忠実に再現した圧倒的な臨場感と、おなじみのVHSフィルタによるザラついた映像により、実際に現地を訪れているかのような没入感が得られる初期の傑作だ。
雰囲気を重視したいわゆるウォーキングシミュレーターであるものの、適度な謎解きやアイテム探索、プレイの仕方で変化するマルチエンディングなど、リプレイ性が高いのも魅力の一つ。スタジオの初期作品に共通するのは、レトロかつ不気味なビジュアルスタイルの確立、ゲーム性の高いサバイバルホラーへの傾向など、よりクラシックなホラーゲームのおもしろさを追求していることだ。加えて、日本の都市伝説や怪談的な要素が取り入れられており、現実とフィクションが混ざり合う独特の世界観が体験できるのも特徴として挙げられる。
次は2022〜2023年に発売された、スタジオ転換期の作品を見ていこう。「閉店事件」は、カフェの閉店作業中に忍び寄る“人間”の恐怖を描いたサイコホラーで、幽霊や怪物ではなく、現実に起こりうるストーカー被害をテーマにしているのが最大の特徴だ。ホラーゲームでありながら、カフェ店員として接客から店内の清掃などをこなす必要があり、本格的なジョブシミュレーター要素が盛り込まれているのも初期作品にはなかったポイントだろう。
続いて「地獄銭湯」は、懐かしい昭和レトロな銭湯を舞台に、ジャパニーズホラーらしいじわじわと忍び寄る恐怖を描いた作品だ。チラズアート特有のVHS風のグラフィック、いつなにが起きるかわからない心理的なプレッシャー、そしてリアルな業務シミュレーション要素が詰まった一本だ。バグの多さなどで一度販売停止となったが、のちに不具合やゲームメカニクスを全面的に修正したリメイク版がリリースされた。
「夜間警備」は、数ある同スタジオ作品のなかでも過去最恐と評しても過言ではないほど、恐怖演出が最も研ぎ澄まされた作品だ。たとえば、舞台である静まり返った深夜のオフィスビルをプレイヤーは1人で巡回するのだが、常に“誰か”の気配を感じる背後への不安と、リアルに設計された足音や環境音からくる緊張感など、極限の恐怖を体験できるだろう。もちろんこれまでの作品同様、警備業務をこなす日常パートや、物語に隠された考察要素も作り込まれた名作である。
そして「誘拐事件」は、小学3年生の男の子を主人公に、身近に潜む人間の狂気と家庭の闇を描いたサイコロジカルホラーで、ネグレクトや育児放棄といった現実味のあるテーマを題材にした重たいゲームとしても知られている。
この時期に共通するのは、従来のVHSフィルタによる映像表現や理不尽さの恐怖などチラズアートらしさは維持しつつ、現代社会の闇をより濃く反映した“ヒトコワ”的なサイコホラーにフォーカスしていることがわかる。
最後は2024年以降に発売された直近の作品を紹介しよう。「新幹線0号」は、ヒット作「8番出口」にインスパイアされた“異変探し”と、チラズアート独自の心理的ホラーが融合した稀有な作品。プレイヤーは、新幹線の車両を歩き、間違い(異変)を見つける“8番ライク”なウォーキングシミュレーターを体験できるが、単なる異変探しに留まらず、追いかけてくる幽霊や、ミスを重ねることで発生するジャンプスケアなど、パズルとホラーのバランスが絶妙な意欲作だった。
2026年リリースの最新作「ウミガリ」は、霧深い日本海を舞台にした“一人称銛(もり)漁ホラー”だ。自ら銛を構えて魚を仕留める「スピアフィッシング」がゲームプレイの核となり、獲った魚を換金し、燃料の購入や船のアップグレード(速度、照明、装備)などに充て、探索範囲を広げていく成長システムを実装している。また、霧に包まれた大海原に潜む巨大生物、奇妙な魚人のような異形に対する生理的な気味の悪さが強調されており、先の見えない不穏な海洋ホラーの世界観を、チラズアート史上最もリアルで精緻なグラフィックで描いている点も魅力だ。これまでの作品とは異なる、一風変わった方向性のタイトルとして期待値も高い。
足早にチラズアート作品の時系列を追ってみたが、筆者が考えるスタジオ特有の魅力とは、一貫して「不条理さ」「理不尽さ」を恐怖の本質として捉えていることだ。どの作品にせよ、主人公は日常から非日常的状況に追い込まれていき、一個人では抗えない事態になる。
その本質は、ゲームというフィクションだけでなく現実世界においても、突発的に巻き込まれる事故や事件、個人的な悩みや挫折など、生きている限り付き纏う“闇”の部分として当てはまるだろう。そうした恐れを巧みにパッケージしたからこそ、チラズアートの作品は多くのユーザーから特別な共感と支持を集めたのではないかと思う。

