樋口真嗣監督が「アバター」に見るJ・キャメロン監督の“矛盾”に共感。「矛盾があるからこその作家性」【「アバター」最新作公開記念特別連載】
「3Dで観られる私たちは本当にラッキーなんです」
――では樋口さん、映画監督の視点から、優れた3D映画でもある本作が持つ、“劇場で鑑賞するからこその魅力”はどういうところにあるとお考えですか?
「家では絶対に観られないフォーマット。3Dを堪能するためには映画館に行くしかないんです。ということはつまり、まさにいま、観なきゃダメということです。僕はいまの風潮として4DXやIMAX、そして3Dなどのラージフォーマットは広く受け入れられていると思っています。にもかかわらず、衰退したような印象を受けてしまうのは、おもしろさや興奮が足らないのではなく、採算が合わないから。製作費がかかり、手間暇のかかり方もハンパないので作る側が諦めてしまったところがある。にもかかわらず、こうやっていま、観られるわけですから、映画ファンとっては大きなチャンスなんです、絶対に。ディメンションがひとつ多くなるわけだから、そっちがいいに決まってます。それがわかっているからキャメロンもこうやってこだわり続けている。それが観られる私たちは本当にラッキーなんです。3Dで観られない国だって絶対にあるでしょうからね。
考えてみれば、近年における3Dの最初の映画って、ディズニーランドの『キャプテンEO』(86)なんですよ。だからディズニーもキャメロン同様、3Dにはこだわりがあるのかもしれない(笑)」
――昔、キャメロンがこう言っていました。「スティーブ・ジョブス氏には悪いが、私はスマートフォンの小さな画面で観るような映画はつくっていない」。それをちゃんと実行していますね。
「それはかっこいい!僕も言ってみたいけどへなちょこなんでダメですね。ちゃんとその言葉を実行しているからさすがキャメロンなんですよ。映画ファンも、キャメロンの映画だけはスクリーンで観ると決めている人、絶対にたくさんいるんじゃないでしょうか」
――最後に、監督の樋口さんにとってジェームズ・キャメロン監督はどういう存在なのでしょうか?
「そうですね…前にも言ったように“神”であると同時に、やっぱり僕たちに希望を与えてくれたフィルムメーカーだと思います。例えばジョージ・ルーカスは、僕たちが小学生の時からすでに『スター・ウォーズ』(77)のルーカスだったから到底、追いつけるはずはない。でも、キャメロンの『ターミネーター』(84)を観た時に、『ああ、これなら僕たちにもつくれるかも』と思わせてくれた。モデルアニメーションやマットペインティング(実写のような背景画を描くこと)、リアプロジェクション(俳優の後ろにスクリーンを設置し、スクリーンの裏側から映像を映写する技法)など、昔ながらの映像技術、製作費がなくても使える技術を駆使して撮っていたからです。本当にカツカツのなかで、これなら実現できるという感じかな。アメリカに行かなきゃ凄いSF映画は撮れない?やっぱりお金が問題?なんて思っていたら違っていたわけです。僕は最初に観た時、そこに感動しちゃいましたから。古い技術であっても絵作りのセンスといいストーリーを語れれば、ここまでおもしろい映画が出来るんだと教えてくれたのがキャメロンだったということです。そういう意味ではやはり彼は僕たちフィルムメーカーにとってはスペシャルな存在だといえると思います。
ただキャメロン、『ターミネーター』以降は失敗しらずで、ハリウッドで確固たる地位を手にし、われわれの手が届かない高みにまで行っちゃったんですけどね。もう誰ひとり追いつけないんじゃないですか?この『アバター』シリーズを観ていると、僕たちは、なんだか凄いフィルムメーカーの人生を見ているんだなあという気持ちになってしまいます」
取材・文/渡辺麻紀

