名作の宝庫!?『TOKYOタクシー』から『タクシードライバー』、「TAXi」、『ナイト・オン・ザ・プラネット』まで多彩なタクシー映画たち

名作の宝庫!?『TOKYOタクシー』から『タクシードライバー』、「TAXi」、『ナイト・オン・ザ・プラネット』まで多彩なタクシー映画たち

冷徹な殺し屋と忙しない日々にただ流されるだけだったタクシー運転手との戦いを描く『コラテラル』

コラテラル』(04)はタクシードライバーと殺し屋のせめぎ合いを描く、トム・クルーズ主演のサスペンス。独立して起業する日を夢見ながら真面目に働くロサンゼルスのタクシー運転手のマックス(ジェイミー・フォックス)は、ある晩、ヴィンセント(トム・クルーズ)と名乗る客から、朝までに5か所を回る貸し切りの仕事を高額で請け負うことにする。ところがヴィンセントは冷徹な殺し屋で、マックスもその片棒を担がされてしまう。

冷徹な殺し屋ヴィンセント(『コラテラル』)
冷徹な殺し屋ヴィンセント(『コラテラル』)TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.

客さばきがうまく機転の利くマックスは、その資質を見込まれて死体運びを手伝わされ、ヴィンセントになりすまして依頼者から標的のデータを受け取るように命令されるなど、いつしかヴィンセントと運命共同体になっていく。常に何手も先を読むヴィンセントと接するうちに、自分は日々流されていただけだと気づき覚醒するマックス。初老の殺し屋を演じたクルーズと、本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたマックス役ジェイミー・フォックスによる、敵対しながらも師弟のようでもあるかけ合いには手に汗握るものがあり、見応えも十分。監督はアクション、サスペンスの名手で映像派としても知られるマイケル・マン。おもな舞台はタクシーの中だが、多彩なカメラワークや幻想的なロサンゼルスの景観などビジュアルの美しさにも酔いしれる。

ヴィンセントを乗せてしまったマックスは彼の仕事を手伝わされることに(『コラテラル』)
ヴィンセントを乗せてしまったマックスは彼の仕事を手伝わされることに(『コラテラル』)TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.

在日コリアン二世のタクシーの運転手が自身のアイデンティティに思いを馳せる『月はどっちに出ている』

東京でタクシーの運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた、梁石日の長編小説「タクシー狂躁曲」を映画化した『月はどっちに出ている』(93)。ボクサー崩れやヤンキー上がり、出稼ぎイラン人など雑多な同僚に囲まれたタクシー運転手の神田忠男こと姜忠男(岸谷五朗)は、フィリピンパブで働くコニー(ルビー・モレノ)と出会い恋に落ちる。彼女と暮らす日々のなか、忠男は自身のアイデンティティに思いを馳せる。

資金難にあえぐ会社との軋轢や客とのけんか、無銭乗車した男との追走劇、人種差別…。“人種のるつぼ”東京の片隅で生きる人々をコメディタッチで映しだしていく。「月はどっちに出ている」というタイトルは道に迷ったドライバーに帰り道を教える時の常套句で、人生に迷った人々を象徴するフレーズでもある。監督はのちに梁石日の「血と骨」も映画化した崔洋一で、本作でブルーリボン賞や毎日映画コンクールほか多くの賞で作品賞や監督賞を獲得した。

東京でタクシー運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた『月はどっちに出ている』
東京でタクシー運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた『月はどっちに出ている』DVD 発売中 価格:4180円 発売元:オデッサ・エンタテインメント [c]『月はどっちに出ている』製作委員会

光州事件にタクシー運転手とその乗客となったドイツ人記者の姿を通して迫る『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』

ソン・ガンホがそそっかしくて気が短いタクシー運転手を演じた韓国映画で、実話に基づく社会派『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(17)。1980年、軍事独裁政権を敷く朴正煕大統領の暗殺を受け、韓国では「ソウルの春」と呼ばれた民主化の機運が高まっていた。しかし、光州では軍が武力で民主化運動を抑圧し、通信や交通も厳しく規制されてしまう。ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)は、光州を取材するため身分を偽り入国。行先の実情を知らないソウルの貧しいタクシー運転手マンソプ(ガンホ)は高い報酬に目がくらみ、強引に運転手を買って出るのだが…。

光州事件をタクシー運転手と乗客のドイツ人記者との交流を通して描く『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』
光州事件をタクシー運転手と乗客のドイツ人記者との交流を通して描く『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』[c]Everett Collection/AFLO

前半は言葉が通じない2人のかみ合わないやり取りや、検問をかいくぐるドタバタ道中が展開するが、光州入り後はテイストが一変。並み居るデモ隊に軍が容赦なく攻撃を加える様がドキュメンタリータッチで描かれる。軍情報部がピーターに目を付けて以降は、死と隣合わせのスリリングな展開に。ケガ人を病院に移送するなどデモ隊の足となるタクシー運転手たちの活動を含め、実話ならではの重さを持つ作品だ。

大金につられ、身分を偽って入国したドイツ人記者ピーターを乗せたタクシー運転手のマンソプ(『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』)
大金につられ、身分を偽って入国したドイツ人記者ピーターを乗せたタクシー運転手のマンソプ(『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』)[c]Everett Collection/AFLO


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