名作の宝庫!?『TOKYOタクシー』から『タクシードライバー』、「TAXi」、『ナイト・オン・ザ・プラネット』まで多彩なタクシー映画たち
山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』(公開中)。倍賞千恵子と木村拓哉が共演し、タクシー運転手と一人の乗客との出会いによって巻き起こるささやかな奇跡が描かれる。知らない者同士が狭い空間で居合わせるタクシーは、創作物においていくつものドラマチックな名場面を生んできた舞台装置の一つ。そこで感動作からアクション、コメディ、サスペンス、歴史的事件を扱った実話まで多種多様なタクシー映画を紹介したい。
鬱々とした日々を送るタクシー運転手と終活に向かうマダムの交流を描く『TOKYOタクシー』
家族のため、日々の仕事に打ち込むタクシー運転手の宇佐美浩二(木村)。しかし、車検や家賃、娘の受験費用など厳しい現実に頭を悩ませていた。そんなある日、浩二は85歳の高野すみれ(倍賞)を東京の柴又にある自宅から神奈川県の葉山の高齢者施設まで送り届ける仕事を請け負う。これが見納めと東京を惜しむすみれの希望で、高速道路は使わずに思い出の地を巡りながらタクシーが進むなか、彼女は自身の壮絶な過去を語り始める。
移動する車中で、年齢も暮らしもまったく異なる2人がいつしか絆で結ばれていく山田監督の最新作は、ワケあり老婆としがない中年男のロードムービーだ。言葉のキャッチボールをしながら2人の距離がぐんぐん近づいていく様に、観ている側もどんどん引き込まれていく。名所巡りのルートもランドマークが網羅され、東京を知っていればより楽しめるのもポイント。原作はフランス映画『パリタクシー』(22)なのだが、単にローカライズしただけでなく、2人以外の登場人物をしっかり立たせ、ウィットに富んだ語り口、「男はつらいよ」シリーズの倍賞と『武士の一分』(06)の木村、「家族はつらいよ」シリーズの蒼井優をはじめとするおなじみの配役など、しっかり“山田映画”になっている。
孤独な青年の姿を通して社会の闇を描いていく『タクシードライバー』
タクシー映画と聞いて、最初に『タクシードライバー』(76)を思い浮かべる人は多いはず。監督マーティン・スコセッシ、脚本ポール・シュレイダー、主演ロバート・デ・ニーロによる本作は、70年代を代表するアメリカ映画の1本だ。不眠症に悩む元海兵隊の青年トラヴィス(デ・ニーロ)は、タクシー運転手として走り回るうちに猥雑なNYの街に嫌悪感を抱いていた。彼は大統領候補の選挙事務所で働くベッツィ(シビル・シェパード)にふられたのを機に、“街の掃除”に傾倒。銃を手に、彼女が支援する候補者の狙撃を計画したり、13歳の娼婦アイリス(ジョディ・フォスター)を救出しようとする。
孤独な青年トラヴィスの姿を通し、ベトナム帰還兵のPTSDや治安の悪化、少女売春、作られた英雄像など社会の闇が描かれ、『ファイト・クラブ』(99)や『ジョーカー』(19)など多くの犯罪映画に影響を与えた衝撃作。タクシーから夜のNYを捉えた妖しげな映像も多くの映画に受け継がれている。33歳のスコセッシは本作でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールほか、批評家賞を中心に数多くの賞を受賞。デ・ニーロやシュレイダーの名を世界に知らしめた。
スピード狂のタクシードライバーとドジな刑事のバディが様々な事件解決に挑む「TAXi」シリーズ
タクシーを使ったアクション映画の代表作が、リュック・ベッソンの製作&脚本で1997年に第1作が公開された「TAXi」シリーズ。フランス南部の都市マルセイユを舞台に、スピード狂のタクシードライバーが大活躍する痛快作だ。飛ばし屋ドライバーのダニエル(サミー・ナセリ)は、スピード違反を見逃してもらう代わりにドジな刑事エミリアン(フレデリック・ディーファンタル)の捜査に協力。過激なドライビングテクニックを駆使して連続銀行強盗犯を追い詰めていく。
本作の魅力はなんといってもカーアクション。ボタン操作で高速仕様に変形するプジョー 406の改造タクシーを駆るダニエルが、ドイツ人強盗団のメルセデス・ベンツ 500Eと市街地でデッドヒートを展開する。路地裏の爆走や逆走、信号無視が当たり前なスリル満点の走りのほか、相手を挑発するダニエルのマシンガントークも楽しめる。映画は大ヒットし、ダニエルが日本でヤクザに立ち向かう『TAXi2』(00)、雪山チェイスを繰り広げる『TAXi3』(03)、過去作のキャラが集結した『TAXi4』(04)も公開。ダニエルの甥っ子が登場するスピンオフ『TAXi ダイヤモンド・ミッション』(18)や、NYで女性運転手が大活躍するリメイク『TAXI NY』(04)と計6作が製作された。
