「不安に寄り添いながら、若者にとって力になれるような映画」細田守監督が明かす『果てしなきスカーレット』に託した想い

「不安に寄り添いながら、若者にとって力になれるような映画」細田守監督が明かす『果てしなきスカーレット』に託した想い

「19年の間に“未来”のあり方が変わったのではないかと考えています」

役所広司が冷酷非道な国王、クローディアスの声を担当
役所広司が冷酷非道な国王、クローディアスの声を担当[c]2025 スタジオ地図

本作ではプレスコ(音声収録を先にすること)を採用しているが、壮大で力強い映像が出来上がったのは、クローディアスを演じた役所の存在が大きかったと力を込めた。「最初の収録は役所さんから。出来上がった作品を観るとわかるのですが、クローディアスの存在感にはものすごいものがあります。力強さと憎らしさと狡賢さと哀れさ。最初からすごい表現力です(笑)。最後のシーンではこの映画のテーマである“生と死”に行きつき、人間が極限にまで行った時に出す声は、ある種の答えのようなものまでを聞かせてもらって。本当に鳥肌が立ちました。これをアニメーションの画にするのは果たして可能なのか、無理なのではないかと思ったくらいです。役所さんの後に収録した芦田さんや岡田さんは、すごいプレッシャーを感じながらのお芝居だったと思いますが、すごく頑張ってくださって、力を発揮して表現してくれました。同じように、アニメーターの方も、役所さんの声を聴いて、芝居のバイブスを感じて刺激をもらったというか。あのお芝居を立たせるために、力をふり絞って仕事をしてくださったのを目の当たりにしました。みんなの力を引き出してくれた役所さん、そして力を出してくれたみなさんに対しては、ありがとう、という気持ちしかありません」と心からの感謝を口にする。

【画像を見る】細田守監督も魅力された!スカーレットの声を担当する芦田愛菜の歌声にも注目
【画像を見る】細田守監督も魅力された!スカーレットの声を担当する芦田愛菜の歌声にも注目[c]2025 スタジオ地図

さらに本作でスカーレットを演じ、歌唱も披露している芦田の表現についても驚きがあったと話す。「現実世界で歌えないが、仮想世界では歌姫のヒロインを描く『竜とそばかす』の時と違って、『果てしなきスカーレット』は演じる人と歌う人が同じ設定である必要性はないと考えていました。でも、芦田さんの歌を聴いて、そのすばらしさに驚きました。スカーレットを演じた役者さんが歌うことに意味がある、それがこの歌を、映画を何倍もよくすることになると確信しました」としみじみ。芦田については「パブリックイメージからは、復讐するというスカーレットのような役は浮かばないと思います。でもそのパブリックイメージから違う役というのがまたいいなと思いました」と笑顔で語る。「歌もそう。その表現力の幅、奥深さを感じたし、イメージと違うものを演じ、表現するからこそ、その表現力の幅やすばらしさがより際立った気がします。なかなかいないタイプの方ですね」と大絶賛だった。

『時をかける少女』との共通点と違いについても語った
『時をかける少女』との共通点と違いについても語った撮影/杉映貴子

未来から来た男性に主人公の女性が「未来を変える」と宣言する物語の構造は『時をかける少女』(06)を彷彿とさせる。「作りながら気づきました『時をかける少女』と似ているなって(笑)。高橋プロデューサーから指摘されて、そうかも!と思いました。確かに構造は似ています。現代からくるのか、未来からくるのかという部分の違いだけで、その時代を生きる女性が未来を向いていくというところは同じだと思います。けれども、なにが一番違うかというと、やっぱり“未来感”が違うんです。

聖はスカーレットに対し、なんの見返りもなく手を差し伸べる
聖はスカーレットに対し、なんの見返りもなく手を差し伸べる[c]2025 スタジオ地図

『時をかける少女』から『果てしなきスカーレット』までの19年の間に“未来”のあり方が変わったのではないかと考えています。2006年の『時をかける少女』当時はまだ希望があるような未来感を描いていたと思います。一種の若い人のバイタリティによって、未来を築いていってほしいという想いを込めて映画を作りました。でもいまの若い人たちは、いろいろなものにがんじがらめになっていると思うんです。SNSの情報に振り回されたり、必要のない心配をしたり…世の中がどんどん変化しつつ、いままで正しいと思っていたものが一気に変わっていってしまう時代だと感じています。そういうなかで、『頑張れよ!』とか『バイタリティを発揮しろ!』というだけではなく、不安に寄り添いながら、若者にとって力になれるような映画になればいいなという想いで『果てしなきスカーレット』を作りました」とこれまで生み出した作品やテーマの関連性なども踏まえたうえで、本作に込めたメッセージを伝えた。


取材・文/タナカシノブ

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