「不安に寄り添いながら、若者にとって力になれるような映画」細田守監督が明かす『果てしなきスカーレット』に託した想い

「不安に寄り添いながら、若者にとって力になれるような映画」細田守監督が明かす『果てしなきスカーレット』に託した想い

細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』(公開中)は、復讐にとらわれて≪死者の国≫をさまよう王女のスカーレットが、現代日本からやってきた看護師の青年、聖と出会い、共に旅をするなかで変化していく姿を描き、「生きるとはなにか」を問いかける物語が描かれる。

『果てしなきスカーレット』は「生きるとはなにか」を問いかける物語
『果てしなきスカーレット』は「生きるとはなにか」を問いかける物語[c]2025 スタジオ地図

主人公スカーレットの声を芦田愛菜、聖役を岡田将生が担当。スカーレットの宿敵で冷酷非道なクローディアス役を、細田作品へは4度目の参加となる役所広司が演じている。共演には市村正親、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊、山路和弘、柄本時生、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子ら豪華キャストが名を連ねている。

「復讐というものをどのように考えればいいのかという想いで作ったつもりです」

本作の一つの大きなキーワードは「復讐」。細田監督が作品で初めて描く題材だ。「この映画を作り始めたのはコロナがちょうど明けたあたり。非常に苦しいコロナの時代が終わったと思ったら、世界でいろいろな紛争が続け様に起きるようになりました。復讐に次ぐ復讐、そんな負の連鎖の先になにがあるのか、と考えるようになって。これから違う世界のありように突入していくのではないかと思った時に、復讐というものをどのように考えればいいのかという想いで作ったつもりです」と着想は、世界が直面している問題からだったと明かす。

復讐という狂気に取りつかれた中世の王女スカーレットの物語
復讐という狂気に取りつかれた中世の王女スカーレットの物語[c]2025 スタジオ地図

モチーフの一つになったのはシェイクスピアの「ハムレット」だった。「憎むべき敵を倒して爽快になる。復讐劇はエンタテインメント性があり、映画の一つの王道ジャンルだと思うんです。昔、僕がいた東映アニメーションでも、そういう映画が非常に多くて(笑)。でも、いまはひょっとしたら世の中に善人と悪人がいて、悪人を倒したら幸せというのではなく、それぞれに正義があって、一方が復讐を果たしたら、もう一方のほうの復讐劇がまた始まろうとする。それっていうのは結局、復讐劇のあとに続くのは悲劇ではないかと思って。そんなふうに考えると、世界はどこへ向かっていくのか、と思うわけです。それが、この映画に色濃く反映されている気がします」と振り返り、本作の制作に4年かかったことに触れ、「作っている間に世界情勢が良い方向へ変わってくれたらよかったのですが、残念ながらあまり変わっていない。非常に複雑な気持ちです。そういう状況にいるいまの若い方たちの不安にちょっと寄り添えるようなものになったらいいなと思いながらこの映画を作りました」と本作に込めた想いを打ち明ける。


そのような考えは、細田監督自身が学生時代に触れた「ハムレット」から受けた衝撃にも影響されたようだ。「高校から大学にかけてのころに『ハムレット』を読みましたが、若い人たちが思い悩んでいることにすごく合致するものがあると感じました。これからの人生どうやって生きていこうかみたいな漠然とした不安が描かれているというか。学生のころに読んだ時も、今回読み返しても同じように感じたし、400年経っても通じる、非常に普遍的な物語ではないかと実感しました」。

スカーレットの果てしなき復讐の旅路の行く先とは?
スカーレットの果てしなき復讐の旅路の行く先とは?[c]2025 スタジオ地図

主人公のスカーレットを女性にした理由について「大学のころ、1988年に観た蜷川幸雄さん演出で渡辺謙さんが主演の『ハムレット』をテレビの舞台中継で観て。僕に強烈な印象を残したのは荻野目慶子さんが演じていたオフィーリアでした。オフィーリアは救いがなくて非常にかわいそうなキャラクターなのですが、荻野目さんが演じたオフィーリアからはかわいそうなだけじゃなくて、運命に負けていない力強さのようなものを感じて。それが強く心に残っていたので、主人公にあたるスカーレットをハムレットと同じく男性にはせずに女性しました。悲劇のヒロインとして描かれがちなオフィーリアを、ただ美しいではなく運命に抗い力強いヒロインとして描くべきというのは、当時から僕自身感じていたことでした。今回のポスターのスカーレットが非常に力強くなっていることもその名残があると思っています」と説明。

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