名台詞と細田守監督の創作熱意を、『時をかける少女』から最新作『果てしなきスカーレット』までたどる【スタジオ地図「A to Z」連載最終回】
X…X【未知なるもの】
細田守作品の核にあるのは、未知なるものに懸けるマインド。言い換えれば「人の可能性を信じること」だ。主人公たちの成長や選択を通じて、この主題が表現されており、現実と仮想、過去と未来といった境界を越える物語構造が象徴的な役割を果たしている。
『サマーウォーズ』では内気な性格の理科系男子・健二が仮想空間<OZ>で起こった世界の危機という未知の領域に飛び込み、自分の特技を活かして世界を守ろうとする。『竜とそばかすの姫』では、主人公・すずが仮想空間<U>で歌姫ベルとして自己表現に挑む姿を通じて、自分自身と向き合う勇気が描かれる。細田監督はこれらの作品でインターネットやSNS社会における現代的なテーマで作品を制作する可能性を探っている。
『おおかみこどもの雨と雪』では、人間と狼の二面性を持つ子どもたちが自らの生き方を選ぶ姿を通じて、親が子どもの可能性を信じて見守る姿勢が感動的に描かれる。『未来のミライ』では幼いくんちゃんが未来の妹と出会い、家族の歴史を旅することで、自らのルーツと向き合い成長し、アイデンティティを確立していく姿が描かれている。
『果てしなきスカーレット』では、≪死者の国≫を舞台に、生と死という根源的な未知に向き合う物語が展開される。監督自身、「先行きの見えない世界でも前を向いてほしい」と語り、先行きが不透明な世の中を生きる観客に寄り添い希望のある映画にしたい、という想いで制作した。
なにより人間の内面や社会の変化に根ざした物語を創造し続ける、細田監督の創作姿勢こそが、我々観客の未知への想像力と可能性を信じるものなのだ。
Y…Yell【エール】
映画という大きな公共性を帯びる作品の形を、細田守監督はしっかり背負っている。だからどんなに困難な現代の問題を扱っても、必ず人間や世界を力強く肯定する。セリフにも観客にエールを贈るような珠玉の言葉がいっぱいあふれている。それは決してお説教臭いものではなく、後ろ向きな気持ちになっている人の背中をそっと押してくれるような、人生を豊かに生き抜くためエールに聞こえる。
細田作品に刻まれた名言の数々を繰り返し味わいたい。
●『時をかける少女』
「待ち合わせに遅れてきた人がいたら、走って迎えに行くのがあなたでしょ?」(和子)
「未来で待ってる」(千昭)
●『サマーウォーズ』
「家族同士、手を離さぬように。人生に負けないように。もし、辛い時や苦しい時があっても、いつもと変わらず、家族みんなそろって、ご飯を食べること」(栄)
「あきらめたら、解けない。答えは出ないままです」(健二)
●『おおかみこどもの雨と雪』
「元気で、しっかり生きて!」(花)
「みんながおおかみが嫌っても、お母さんだけは、おおかみの味方だから」(花)
●『バケモノの子』
「忘れないで。私たち、いつだって、たった1人で戦ってるわけじゃないんだよ」(楓)
「あいつの胸ん中の足りねえものを、俺が埋めてやるんだ…。それが半端者の俺にできる、たったひとつのことなんだよ!!」(熊徹)
●『未来のミライ』
「君は1人じゃない。みんなが君を見守っている」(未来のミライちゃん)
●『竜とそばかすの姫』
「<U>じゃ嘘のない賛否両論が、本物を鍛え上げるんだよ」 (別役弘香/ヒロちゃん)
「すず…君は、母さんに育てられて、こんなに優しい子になったんだよ」 (すずの父)
●『果てしなきスカーレット』
「君は傷ついている。だから、俺がそばにいる」(聖)
「スカーレット、生きろ」(聖)
「愛について…」(スカーレット)

