『ニュー・シネマ・パラダイス』『カラオケ行こ!』、『港のひかり』まで。時を超えて愛される“おじさん”と子どもの絆の物語
自分を慕う少女のため寡黙な男が死闘を繰り広げる『アジョシ』
国内外での大ヒットはもちろん、数々の賞にも輝いた傑作ハードボイルドアクション『アジョシ』(10)。アパートの一室で質屋を営むテシク(ウォンビン)は口数も表情も乏しく、誰とも交流のない毎日を送っている。そんな彼の世界に風穴を開けたのは、同じアパートに暮らす孤独な少女ソミ(キム・セロン)。テシクを「アジョシ(おじさん)!」と呼び、懐いてくる彼女だったが、ある日、母と共に謎の組織に連れ去られ…。
テシクとソミが社会の片隅で寄り添うように交流を重ねる前半にはせつなさと愛おしさがあふれる。だがそこからは、とてつもない死闘の連続。囚われたソミを救うべく一人で何十人もの敵を容赦なく殲滅していくテシクの過去が明かされると、物語はいっそう火花を散らし激走する。まるで父娘のようであり、互いの苦しみを唯一わかり合える者同士の2人。ウォンビンはもちろん、今年2025年に若くして亡くなったキム・セロンの名演が胸に沁みる。
歌でつながった中学生とヤクザの奇妙な友情『カラオケ行こ!』
和山やまの人気漫画を野木亜紀子脚本、山下敦弘監督の布陣で映画化したコメディ『カラオケ行こ!』(24)。合唱コンクールの地区大会で敗れ、落ち込んでいた中学生の聡実(齋藤潤)に突然声をかけたのはヤクザの狂児(綾野剛)だった。聞けば、聡実の歌声を聴いていたく感動し、組長の誕生日会で繰り広げられるカラオケ大会に向けてぜひとも歌のご指導を願いたいそうで…。
ヤクザと中学男子とが織り成すカラオケ通いの日々。強面な男が中学生を師として仰ぎ、歌唱の基礎の習得や自分の声の音域に合った楽曲探しを通じて、無二の親友のような関係性を築き上げていく姿をコミカルに魅せる。そして成長するのは狂児だけではない。“歌に愛情を込める”という課題に向き合う聡実が、いつしか心の底からの想いを込めて歌うラストステージのなんと感動的なことか。たとえ住む世界は違っても、歌声が両者を分かつ壁を軽々と越えていく快作である。
いかがだろうか。歳の離れた大人と子どもが紡ぐ絆は、これまで自分の見方や生き方だけでは見えなかった景色を垣間見せ、また人生を乗り越えていく知恵と経験、力を思いがけない形でもたらしてくれる。まさにこのジャンルにはずれなし。映画が映しだす両者の濃密な化学反応を心ゆくまで堪能したい。
文/牛津厚信

