100年以上にわたる「フランケンシュタイン」の映画史…その誕生からギレルモ・デル・トロ版までを俯瞰する

コラム

100年以上にわたる「フランケンシュタイン」の映画史…その誕生からギレルモ・デル・トロ版までを俯瞰する

ハマー・フィルム、東宝版で見せた驚くべき適応力

ユニバーサルの製作サイクルが終息したあと、「フランケンシュタイン」は戦後イギリスのハマー・フィルム・プロダクションズによって再生する。1957年の『フランケンシュタインの逆襲』に始まる一連のシリーズは、鮮烈な色彩と流血描写を特徴とし、科学的傲慢の時代にふさわしい新たな神話を構築した。ピーター・カッシング扮するフランケンシュタイン博士は苦悩する理想主義者ではなく冷徹な実証主義者であり、クリストファー・リー演じる怪物は切り刻まれた肉体のスペクタクルとして登場する。ハマーは同シリーズを現代ホラーの身体性と結びつけると同時に、「知の追求における倫理的境界の崩壊」という根源的な恐怖を改めて強調した。

ハマー・フィルム・プロダクションズによってシリーズが再生した『フランケンシュタインの逆襲』
ハマー・フィルム・プロダクションズによってシリーズが再生した『フランケンシュタインの逆襲』[c]Everett Collection/AFLO

またフランケンシュタイン映画は、西洋の枠を超えても驚くべき適応力を示した。日本では戦後のトラウマと核影響を背景に再解釈される。本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣』(65)では、ドイツで開発された人造人間の心臓が原爆の影響によって人型生物となる。この設定は被爆のメタファーとして反戦的なメッセージを含み、続編『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66)では同一の遺伝子から生まれた2体の怪物が、善悪の対立を繰り広げる。ここでフランケンシュタインはテクノロジーと破壊の二面性を体現する存在として、歴史の傷跡を映す存在となった。本多の取り組みはシェリーの哲学的関心を、日本的ヒューマニズムへと見事に転換したといえる。

ドイツで開発された人造人間の心臓が原爆の影響によって人型生物となる『フランケンシュタイン対地底怪獣』
ドイツで開発された人造人間の心臓が原爆の影響によって人型生物となる『フランケンシュタイン対地底怪獣』Blu-ray&DVD 発売中 発売・販売元:東宝 [c]1965 TOHO CO., LTD.

ポストモダン化と原点回帰

1970年代に入ると、「フランケンシュタイン」は前述の要素から解放され、セクシュアリティや政治、逸脱した美学探求の対象となる。ポール・モリセイ監督、アンディ・ウォーホル監修の『悪魔のはらわた』(73)はその象徴といえるだろう。3Dで製作されたこの作品では、ウド・キア演じる博士が性的執着に突き動かされて人造人間を創造し、科学と欲望が倒錯的に融合する。内臓と風刺が交錯する本作は、ウォーホルによってフランケンシュタインをポップアート的な挑発へと昇華されたのだ。また、こうした怪物の変調展開はメル・ブルックスが監督した『ヤング・フランケンシュタイン』(74)という傑作コメディホラーを生みだすことにも成功している。

傑作コメディホラーとして成功した『ヤング・フランケンシュタイン』
傑作コメディホラーとして成功した『ヤング・フランケンシュタイン』[c]Everett Collection/AFLO

1990年代には、フランシス・フォード・コッポラが『ドラキュラ』(92)で試みた原作回帰の動きがフランケンシュタインにも及ぶ。ケネス・ブラナー監督&主演の『フランケンシュタイン』(94)は、原作のロマン主義的や哲学精神の復活を志向した。ブラナー演じるヴィクターは死の悲しみに突き動かされた人物として描かれ、ロバート・デ・ニーロ演じる怪物は雄弁で知的、そして自らの異形性を痛切に自覚している。この作品は『フランケンシュタイン』を科学暴走への警鐘ではなく、道徳的責任の追及として再構築した。

【写真を見る】ロバート・デ・ニーロが演じた雄弁で知的な“怪物”(『フランケンシュタイン (1994)』)
【写真を見る】ロバート・デ・ニーロが演じた雄弁で知的な“怪物”(『フランケンシュタイン (1994)』)[c]Everett Collection/AFLO


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