『トロン:アレス』でさらに進化!不朽の名作『AKIRA』の原点でもある“ライトサイクル”の魅力に迫る
世界で初めて長編映画としてCGを本格導入し、革新的な技術とビジュアルで革命を起こした映画『トロン』(82)。その最新作『トロン:アレス』が10月10日(金)に日米同時公開となる。今回は、「トロン」シリーズを象徴する存在であり、名作映画『AKIRA』(88)に登場するバイクの原点ともなった“ライトサイクル”の進化にフォーカスし、その魅力に迫る。
『トロン』はジェームズ・キャメロン、ジョージ・ルーカス、ピーター・ジャクソン、ティム・バートン、ウォシャウスキー兄弟など、名だたる映画監督に影響を与えてきた。本作をきっかけにCGアニメーションの可能性を模索し始めたというピクサー創始者のジョン・ラセターは、「『トロン』がなければ『トイ・ストーリー』は生まれなかった」と発言している。
シリーズ1作目となる映画『トロン』が誕生したのは、1982年のこと。デジタル世界に送り込まれた天才コンピューター・プログラマーのケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)が、生死をかけたゲームに挑んでいく様を描いた同作は、現実世界からコンピューター・システムの“デジタル世界”へ侵入するという画期的な設定と、CGを本格導入したまさに“映像革命”ともいえる新たな映像体験をさせてくれたことで、社会現象を巻き起こした。この作品で初めてお披露目されたのが、その後「トロン」シリーズを通じて登場してくることになる“ライトサイクル”という大型バイクのような乗り物だ。
スティーヴン・リスバーガーが発案し、シド・ミードがデザインしたこの乗り物は、まるでデジタル世界のレーシングマシンのような存在。直角のカーブもスムーズに曲がるその姿は、まさに幾何学的な美しさを備えている。ただし、走行中に光の軌跡にぶつかると、ネオンの閃光であらゆる物を切り裂くなど危険が高いため注意が必要だ。シリーズ1作目『トロン』では、丸いフォルムが印象的だったライトサイクル。いま見るとレトロ感があり、可愛らしい印象だが、公開当時はこれが未来的なデザインとして高く評価されていた。そして、このライトサイクルに乗りながら、誰も観たことがなかったデジタル世界を縦横無尽に駆け抜ける様子に、憧れを抱くものも多かった。
その28年後の2010年、続編の『トロン:レガシー』が公開。青白く輝くネオンを基調とした、当時最先端の究極の映像体験が多くのファンを魅了した。ここで登場したライトサイクルは、前作と違い頭上が覆われておらず、私たちが“バイク”と聞いて連想するようなデザインに進化。ただし、通常のバイクとは違い、青白いネオンが印象的にあしらわれたスタイリッシュなデザインとなっている。そして、前作以上にスピード感を増した乗車シーンに興奮を覚えるファンたちも多かった。
そして10月10日(金)に公開を迎える最新作『トロン:アレス』では、さらに進化を遂げたライトサイクルが登場する。今回のライトサイクルは、『トロン:レガシー』のものとは対照的に、真っ赤なネオンが施された最新仕様。これまでとは違い、デジタル世界のみならず、我々が暮らす現実世界にも飛び出し、スリル満点の追走劇を繰り広げることとなる。その舞台となるのは、AIプログラムが実体化された世界。AI兵士アレス(ジャレッド・レト)は、圧倒的な力と優れた知能を備えた究極の兵士だが、AI兵士が現実世界で“生存”できるのはわずか29分間だった。やがて “永遠”を求めてAI兵士たちは暴走を開始し、デジタル世界が現実世界を侵食していく。だが、世界滅亡の危機を迎えるなか、人間を知ったアレスにある“異変”が起こる。彼は人類を滅ぼすのか?それとも…?AI兵士アレスらの追走劇に欠かせない最新のライトサイクルに注目だ。
ちなみに、最新作『トロン:アレス』のプロダクションデザイナーを務めたダレン・ギルフォードは、ライトサイクルについて、「『トロン』はデザイン遺産における至宝です。バットモービル(『バットマン』に登場する乗り物)のように、映画車両の伝説において宗教的な崇高さを帯びた地位を確立しました」とその重要性を説明。「シド・ミードがオリジナルをデザインし、私がそれを更新し始めた時、その作業はまるで宗教的遺物を扱うかのようでした。ライトサイクルをライトサイクルたらしめる不文律、視覚的要素に関する暗黙のルールが存在し、その境界線からは決して外れてはならないのです」とも話しており、1作目の『トロン』で登場したライトサイクルらしさは忘れずに、最新版に進化させたとしている。
突如、暴走をはじめ現実世界を侵食し始めるAIと、そのAIに立ち向かう人間たち。スリルあふれる物語に欠かすことのできないキーとなるライトサイクルにぜひ期待していてほしい。
文/山崎伸子