『ドールハウス』から最新作『火喰鳥を、喰う』まで。ジャンル別に見る“2025年をザワつかせたJホラー”

コラム

『ドールハウス』から最新作『火喰鳥を、喰う』まで。ジャンル別に見る“2025年をザワつかせたJホラー”

様々な物に情念が宿る“呪物系”

超常的なパワーや呪いを宿した物品=呪物。「呪術廻戦」でも広く知られるようになり、映画では「死霊館」ユニバースのアナベル人形が有名だろう。『スウィングガールズ』(04)の矢口史靖が監督&脚本、長澤まさみが主演を務めた『ドールハウス』もこの呪物を題材にした“呪物系”で、やはり得体の知れない人形による恐怖が描かれる。5歳の娘を事故で亡くし、悲しみに暮れる佳恵(長澤)と忠彦(瀬戸康史)夫婦。ある日、佳恵は骨董市で娘に似た人形を購入し、我が子のように愛情を注ぎ始める。しかし、新たに次女が生まれると2人は人形のことを気にかけなくなっていく。そして次女が5歳になったころ、一家に奇妙な出来事が起こり始める。

骨董市で見つけた人形を我が子のようにかわいがる夫婦(『ドールハウス』)
骨董市で見つけた人形を我が子のようにかわいがる夫婦(『ドールハウス』)[c]2025 TOHO CO., LTD.

佳恵が、我が子を失った悲しみを埋めるように人形を“アヤちゃん”と名前で呼び、髪を切ってあげ、ベビーカーに乗せて散歩する姿に異様さを感じずにはいられないが、夫婦が人形への関心をなくしてからは恐怖が加速。知らないうちに枕元で横になっていたり、捨ててもまた戻ってきたり、祖母が孫だと思っておんぶしていたのが人形だったり…。深い愛情を注がれた結果、人形に子どもの意思が芽生えてしまったのだろうか?

人形は“呪物”なのだろうか?(『ドールハウス』)
人形は“呪物”なのだろうか?(『ドールハウス』)[c]2025 TOHO CO., LTD.

“呪物系”の最新ホラー『火喰鳥を、喰う』とは?

最後はいま注目の『火喰鳥を、喰う』。原作は第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞で大賞を受賞した原浩による小説で、主人公の先祖が所持していた因縁めいた日記が呼び起こす怪異譚が描かれる。

墓石から先祖の名前が削られる不可解な出来事が起こる(『火喰鳥を、喰う』)
墓石から先祖の名前が削られる不可解な出来事が起こる(『火喰鳥を、喰う』)[c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会

久喜雄司とその妻の夕里子はある日、一家代々の墓石から太平洋戦争で戦死した先祖、久喜貞市(小野塚勇人)の名が削られていることに気がつく。そこへ地元紙の記者とカメラマンが訪れ、生前の貞市が書いたという日記が届けられる。日記には、戦地での壮絶な日々が綴られており、最後のページには「ヒクイドリ、クイタイ」という言葉が書かれていた。その日を境に、夫婦の周辺では不穏な事件が頻発していく。

【写真を見る】なにがなんでも生きたいと願う執念がこもった日記…呪物が日常に異変をもたらす『火喰鳥を、喰う』
【写真を見る】なにがなんでも生きたいと願う執念がこもった日記…呪物が日常に異変をもたらす『火喰鳥を、喰う』[c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会

アナベルや『ドールハウス』のアヤちゃんのような人形は見るからにゾクゾクと恐怖感をかき立てられるが、本作における日記も呪物として異様な雰囲気を放っている。日記は持ち主がその日その日の出来事や感じたことを文章にして記録するものであり、それが戦場の兵士のものであれば一言一句に対する重みも相当なもの。なにがなんでも生きたいという貞市の執念が超常的な力を生み、彼の思いが綴られた日記に触れることで正気を失い謎の失踪を遂げる者も現れるなど、夫婦やその周囲の人たちに様々な影響を及ぼしていくのも納得だ。

夕里子をめぐり、雄司と北斗は激しく対立する(『火喰鳥を、喰う』)
夕里子をめぐり、雄司と北斗は激しく対立する(『火喰鳥を、喰う』)[c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会

雄司と夕里子を演じるのは水上恒司山下美月。超常現象専門家の北斗総一郎役でSnow Manの宮舘涼太も出演する。北斗は過去に夕里子と深い関係にあった人物でいまも彼女に執着している。そのことを知りながらそれでも協力を仰がなければならない夫婦との歪な関係、3人が日記に秘められた力を探ろうとするミステリーも見どころになっている。

Jホラーの幅広さ、深さを改めて実感させられる2025年。最新作『火喰鳥を、喰う』でもその真髄に触れてほしい。


文/平尾嘉浩

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