シュワルツェネッガーがオファーされたのはターミネーター役じゃない?影響を受けた作品などトリビアでたどる『ターミネーター』
撮影延期になってもめげないジェームズ・キャメロン
10:「マッドマックス」からの影響も
車やバイクが大好きで、若い頃は自分で改造した車で公道を飛ばしていたというキャメロン。そんな彼が『ターミネーター』のカーアクションで参考にした作品に挙げているのが『ザ・ドライバー』(78)と『マッドマックス2』(81)だ。前者は「エイリアン」シリーズのプロデューサーでもあるウォルター・ヒルの代表作で、ロスの裏社会で活躍する逃がし屋を描いたハードアクション。後者はメル・ギブソン主演のSFアクションで、銃を絡めたカーチェイスは本作にも取り入れられた。ターミネーター役にギブソンをオファーしたり、『ターミネーター2』(91)でジョン・コナーの愛犬にマックスと名付けたのもこの作品の影響かも。
11:キャメロンらしいこだわりの特殊効果
低予算で製作された本作だが、視覚効果出身のキャメロンらしいこだわりが映画を盛り上げた。まずは様々なデータが表示されたターミネーターの主観映像。これはCGではなく、アップル社のパソコン「Apple II」のソースコードをプリントアウトして合成したもの。未来の戦争シーンはミニチュアで、キャメロンのメカデザインも手伝ってスケール感がアップ。終盤のトラックにもミニチュアが使われ、大型車の爆発炎上が派手な見せ場を作った。皮膚の裂け目からメカが顔を出す修理シーンは特殊メイク&パペットで、スケルトンのアップにもリアルなパペットを使用。ロングショットにストップモーション・アニメーションを使うことで、自由に歩き回らせることもできた。これら全編に散りばめられたSFX映像が、映画のSFマインドを盛り上げている。
12:撮影延期が『エイリアン2』『ターミネーター2』の監督へとつながる
『ターミネーター』の製作が決まったあと、シュワルツェネッガーは『キング・オブ・デストロイヤー コナンPART2』(84)に出演することになり撮影が延期されてしまった。金銭的な余裕のなかったキャメロンは脚本の仕事を探し、プロデューサーのマリオ・カサールとアンドリュー・G・ヴァイナから『ランボー 怒りの脱出』の執筆を受けた。のちに2人は自身のカロルコ・ピクチャーズで『ターミネーター2』を製作する。同時期に『エイリアン2』の脚本も依頼され、『ターミネーター』を成功させたあとに監督も任されることになった。予想外の撮影延期が、結果的にキャメロンのキャリアアップにつながったのだ。
13:視覚効果の巨匠、スタン・ウィンストンの存在
本作の特殊メイクや造形を担当したのがスタン・ウィンストン。デザインや造形など各分野のエキスパートが集結したウィンストン・スタジオは、ウィンストンの指揮のもと本作のリアルな映像作りに貢献。『エイリアン2』、『ターミネーター2』でも組んだキャメロンとウィンストンは、共同で視覚効果会社デジタル・ドメインを設立した。ウィンストンは2008年に死去したが、ウィンストン・スタジオのメンバーが設立したレガシー・エフェクツは「アバター」シリーズのデザインワークを手掛けている。
14:ハーラン・エリスンへの謝辞
映画のエンドロールには「ハーラン・エリスンの作品に謝辞を捧ぐ(Acknowledgement to the works of Harlan Ellison)」と大きく表示されている。ハーラン・エリスンはSF作家で、脚本家としても活躍した人物。彼は『ターミネーター』を観て、自分が脚本を書いたSFアンソロジードラマ「アウター・リミッツ」(1963~65年放送)の盗作だと訴訟を起こした。問題のエピソードは「38世紀からきた兵士」と「ガラスの手を持つ男」で、前者は未来戦争の最中にタイムスリップして来た2人の兵士が現在でも戦い続ける物語。後者は人類が滅んだ遠い未来から来た男が、過去を変え人類滅亡を回避しようとするお話だ。示談が成立し、映画には上記のクレジットが追加された。
弾けるようなアクションとドラマチックな展開は40年を経たいまも新鮮。4Kレストア版で新たに生まれ変わった、キャメロンらしい凝った映像やサウンドを劇場で味わってほしい。
文/神武団四郎