殺し屋たちの戦いを描く主演作『カマキリ』がヒット中!非実在的人物を“キャラ化”させるイム・シワンの卓越した演技力
Netflixオリジナル映画『カマキリ』(配信中)は、シングルマザーの殺し屋ボクスンの活躍を描いたチョン・ドヨン主演の『キル・ボクスン』(23)のスピンオフとして誕生したアクションサスペンスだ。オリジナル版は『キングメーカー 大統領を作った男』(20)などのビョン・ソンヒョン監督が手掛けたが、今回の派生作品では脚本に回り、『キル・ボクスン』の助監督イ・テソン監督がメイン演出として長編デビューを飾った。
キレ味鋭いアクションと交錯するキャラクターたちの感情のドラマという唯一無二の創意は踏襲されており、日本のTOP映画ランキングでも1位を記録するなどスマッシュヒットを飛ばしている。惚れ込んだ俳優と作品作りを続ける傾向にあるソンヒョン監督にとって、近年ほぼすべての作品で起用されているソル・ギョングと共に、『カマキリ』で主演を務めたイム・シワンもまた重要な役者だ。
等身大の若者と、闇を秘めた狂気の人物を演じ分ける表現力
これまでのシワンのキャリアを振り返った時、その魅力的なキャラクターは大きく分けると2タイプで語ることができる。民主化運動のさなかで国家権力の暴力に晒された大学生を力演した『弁護人』(13)や、遅まきの新社会人が初めて味わう挫折と成長を体現したドラマ「ミセン ー未生ー」のように、その時代の等身大の若者像。そしてもう一つは、その純粋さやフレッシュさの中に闇を内包した狂気的人物だ。
『カマキリ』の主人公カマキリは、まさしくカマキリを思わせる特殊なカーブのナイフを武器に持ち、ボクスンと同じ殺人請負会社“MKエンターテインメント”に所属する凄腕の殺し屋だ。束の間の休暇中に代表チャ・ミンギュ(ギョング)が殺されたのをきっかけに、再び血生臭い世界に戻っていく。柄シャツなどの派手なファッション、軽薄な口ぶりのカマキリはボクスンにも増してケレン味が強く、「こんな殺し屋いるのか?」と思わされるほどだ。そんな非現実的存在をうまく“キャラ化”している。
戦闘シーンのシワンは、アイドルグループ「ZE:A」のメンバーとしての姿を思い出させるように、舞うような身のこなしで相手の息の根を止める華麗な刀さばきを見せる。もちろん、スタイルだけでない。カマキリは幼なじみのジェイ(パク・ギュヨン)に一方的な思いを寄せているが、彼女にとってカマキリは、殺しにおいて敵わないライバルだ。羨望と嫉妬の入り混じった思いを抱くジェイと、まっすぐな愛情のつもりで彼女に同情を示してしまうカマキリ。シワンの持つ混じりけのない眼差しゆえに、この2人の感情の食い違いが一層鮮やかになり、悲劇的な感情のドラマが生まれている。