広瀬すずと二階堂ふみの共演シーンは「心地よいセッション」『遠い山なみの光』公開記念舞台挨拶で石川慶監督が大絶賛!
映画『遠い山なみの光』(公開中)の公開記念舞台挨拶が9月5日、TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて開催され、広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、石川慶監督が登壇。花束ゲストとして、子役の鈴木碧桜も登場した。
1989 年にイギリス最高の文学賞であるブッカー賞、2017 年にはノーベル文学賞を受賞し、2つの世紀を代表する小説家となったカズオ・イシグロの長編デビュー作を石川監督が映画化。カンヌ国際映画祭、上海国際映画祭に続き、トロント国際映画祭への出品も決定し、海外での評価を高める本作がいよいよ日本で公開を迎えた。
「人によって答えや解釈が違う作品」と話した広瀬は、「鑑賞後にはスクリーンで観たからこそ伝わるもの、聞こえてきた声があるという感想も届いている」と明かし、(作品が)届いていることを実感していると微笑む。「丁寧に丁寧に妥協なく一つひとつのシーンを撮っている映画」と撮影を振り返った二階堂は「すべてスクリーンのなかに映っているなと感じたのでとてもうれしいです」と充実感を滲ませる。
初共演となる広瀬の印象について「本当に頼もしい。ずっしりといてくれたので、キャストもスタッフも安心して現場に臨むことができました」と語り、「頼りになる座長でした!」と絶賛。広瀬は二階堂との芝居では「自分の中にある違和感みたいなものが溶けるように、紐がほどけていくような感覚がありました」と説明。続けて「佐知子は二階堂さんにしかできないだろうと思う役。圧倒的な存在感を見せていただきました。激的な時間でした」とお辞儀をしながら感謝を伝えた。石川監督は「2人の間には初共演とは思えないような阿吽の呼吸がある。撮影していても、編集していても音楽を聴いているみたいな、とても心地よいセッションでした」と広瀬と二階堂の芝居を音楽に喩え、賛辞を贈っていた。
長崎での先行上映で舞台挨拶を行った吉田は「(全国公開に)先駆けて長崎で公開できたのはとても意味があることだと思います」と頷きながら、「街を歩いていると、異国情緒にあふれ、貿易で栄えた場所という雰囲気もあるけれど、焦げついた建物が残っていたりもします。行ってみて感じることがありました」と現地で感じたことがあると明かし、「日本だけでなく世界の人が気づいたり、考えるきっかけになるような作品になればいいなと心から思った」とも話していた。
「カズオ・イシグロさんが遠い長崎を思いながら描いたもの」と原作に触れた石川監督は、「そのバトンを受け取って映画化しました。街を歩いていると、カズオ・イシグロさんの頭の中をのぞいているような感じがしました。ぜひ、みなさんも、長崎に行っていただき、悦子、佐知子が見た世界を感じてほしいです」と呼びかけていた。
役作りを振り返り、「言語化するのが難しいから、ニュアンスで1回お芝居をやって…という感じを繰り返していました。(撮影から)時間も経って、ちょっと離れたところから(作品を)観てみると、いまだに『ちょっと違ったのかなぁ』と思っているシーンがあります」と、正直に打ち明けた広瀬は自身が演じた悦子と二階堂が演じた佐知子との距離感がものすごく不思議で印象的なシーンがあると話す。このシーンこそが石川監督が「物語のターニングポイントとなる!」と確信したポイントだそうで、「そのシーンのあとに2人の展望台でのシーンにつながっていきます。そこまで広瀬すずは見えているんだって思いました」とニュアンスを伝えながらの芝居、撮影でありながら、広瀬が理解しきっていたものを目の当たりにした瞬間で、衝撃を受けたと感心しきり。石川監督のこの言葉にホッとした表情を見せた広瀬に二階堂が「(広瀬の演じた悦子のあるシーンの)強さに引っ張ってもらいました。展望台で言葉を通わせるところは、言葉と同時に心も通うシーン。すずちゃんが演じた悦子の強さが大事な鍵になっていたと思います」と補足。少し照れる広瀬に会場からも称賛の大きな拍手が湧き起こっていた。
広瀬と二階堂の共演シーンを「音楽を聴いているよう」と喩えた石川監督は、本読みの段階から「全然違う音色の楽器が来たなと思っていたけれど、展望台の上では不思議なハーモニーがありました」とのこと。続けて「力学というか…。2人が近づいていく様子を見ていると、ドキュメンタリーを撮っているような気分になります。監督冥利に尽きるという気持ちでした」と大満足のキャスティングだったと笑顔を見せていた。撮影前にイギリスで1か月のホームステイをした吉田は「イギリスのお水は硬水。シャワーを浴びるだけで髪がパサパサに乾燥して。パン食だったせいかお肌もカサカサに。メイクさんにはいまの(乾燥した)感じを活かしてメイクしてほしいとお願いしました」と、実際に現地で過ごし得たものをしっかりと役に反映したと明かしていた。
最後の挨拶で石川監督は原作のカズオ・イシグロからの言葉に触れ「歴史の語り直しの話。あなたの言葉であなたの解釈で語り直してと言われました。映画が完成し、このバトンはいま、みなさんに渡っています。今度はみなさんの解釈で語り直して伝えて行ってくださればいいなと思っています」と会場を見渡す。続けて「これは記憶の物語なので、どれが正解というのはない。みなさんがどう捉えたのかが正解だと思います。みなさんの言葉で伝えて行ってほしいです」と念押しで「自身の言葉で伝えること」をリクエスト。「役を通して、撮影を通して当時を生き抜いた女性の姿を近く感じることができたような作品」と自身の感想を伝えた広瀬は「余白のある作品だけど、みなさんの心と言葉で埋めてくれたらうれしいです!」と笑顔で呼びかけ、イベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ