数々の名シーンを完全再現!『ヒックとドラゴン』がアニメ版そのままに映像化できた理由とは?
『リロ&スティッチ』を手掛けた名コンビ
このように本作はアニメ版を“完コピ”レベルで忠実に再現している。展開や画作りだけでなく、ジョン・パウエルによる音楽の使い方まで準じるという徹底ぶりだ。それでも不自然さを微塵も感じないのは、オリジナルが実写志向で作られていたからである。監督のデュボアはディズニー出身で、監督デビュー作はクリス・サンダースとコンビを組んだ『リロ&スティッチ』(02)だ。
このタイトルを聞いてピンときた人もいるだろう。同作はディズニーらしいキャラクターアニメーションでありながら、カメラワークや編集、音楽など実写映画を思わせるアプローチがされていた。漫画映画“カートゥーン”マニアのサンダースとリアル志向のデュボアの持ち味が活かされた作品だったのだ。
リアルな世界観を求め生みだされた『ヒックとドラゴン』
ドリームワークスに移籍したサンダースのもとにデュボアが駆けつけ、2010年に2人で撮った監督2作目が『ヒックとドラゴン』だった。ここでデュボアたちはリアルな世界観を求め、『007 スカイフォール』(12)や『ブレードランナー 2049』(17)の撮影監督ロジャー・ディーキンスをビジュアルコンサルタントに起用。実写映画さながらのカメラワークや光と影を駆使した映像はそのまま今回の実写化にも受け継がれている。
つまり、デュボアのなかで『ヒックとドラゴン』は完成された作品であり、実写というフォーマットに変換してもあえて変えるところなどない、ということだろう。その結果、初めて『ヒックとドラゴン』に触れる観客はもちろん、アニメ版を見て「これが実写になったら…」と思いを馳せた映画ファン、実写リメイクに不安を抱くアニメ版のファンすべてが満足できる作品になったのだ。
なお本作でのバイキングのコミュニティは、複数の人種で構成という“いまどき”の設定になっている。唯一といえるアニメ版からの改変だが、舞台がバーク島の外へと広がっていくアニメ版三部作の展開を考えると自然な流れといえよう。ちなみに、デュボアはすでに実写版『ヒックとドラゴン2』の準備に入っている。
アクション、ドラマ、スペクタクルとエンタメ要素がバランスよくそろった『ヒックとドラゴン』。ストーリー、ビジュアルともにファンタジーの魅力が詰まった本作は、まさにスクリーンで味わうべき作品なのである。
文/神武団四郎