モモコグミカンパニーが映画『遠い山なみの光』を考察「自分が見ているものをそのまま信じずに、深読みをしながら楽しんでほしい」

モモコグミカンパニーが映画『遠い山なみの光』を考察「自分が見ているものをそのまま信じずに、深読みをしながら楽しんでほしい」

ノーベル賞受賞作家カズオ・イシグロが1982年に刊行した長編デビュー作を、『ある男』(21)の石川慶監督が映画化した『遠い山なみの光』が本日公開を迎えた。戦後復興期の1950年代の長崎と1980年代のイギリスを行き来しながら、その時代を生きた3人の女性たちの記憶をたどる感動のヒューマンミステリーが展開する。

カズオ・イシグロの長編デビュー作を映画化した『遠い山なみの光』
カズオ・イシグロの長編デビュー作を映画化した『遠い山なみの光』[c]2025 A Pale View of Hills Film Partners

「最初に観た時は、『だまされた!』と思って(笑)。私にとって、けっこう衝撃的な転換点があって、ちょっと悔しかったです。私はあまり疑う見方をしなくて、そのまま観てしまった。2回目に観た時は、全然見方が変わって、より深く鑑賞することができました」と明かしたのは、パンクバンドBiSHのメンバーとして活躍後、小説やエッセイなど文筆業でも高い支持を集めるモモコグミカンパニー。MOVIE WALKER PRESSでは、彼女と映画イベントのMCやアーティストへのインタビューなど幅広く活動する映画・音楽パーソナリティーの奥浜レイラの2人に、ネタバレなしの前編、ネタバレありの後編の二部構成で、『遠い山なみの光』についての深い考察を存分に語り合ってもらった。

日本人の母とイギリス人の父を持ち、大学を中退して作家を目指すニキ(カミラ・アイコ)は、戦後長崎から渡英してきた母、悦子(吉田羊)の半生を綴りたいと考える。娘に乞われ、悦子は口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める。それは30年前、戦後復興期の活気あふれる長崎で悦子(広瀬すず)が出会った、渡米を夢見る佐知子(二階堂ふみ)という女性とその幼い娘、万里子(鈴木碧桜)と過ごしたひと夏の思い出だった。初めて聞く母の話に心揺さぶられるニキだったが、彼女は母の語る物語に秘められた“嘘”に気づき、やがて思いがけない真実にたどり着く…。

モモコグミカンパニーと奥浜レイラによる、『遠い山なみの光』の考察に注目!
モモコグミカンパニーと奥浜レイラによる、『遠い山なみの光』の考察に注目!撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア) スタイリスト/小林ディスカス(モモコグミカンパニー)

「一人称の語り手の回想をたどっていくところがおもしろい」(モモコ)

奥浜レイラ(以下、奥浜)「『遠い山なみの光』をご覧になった印象はいかがでしたか?」

モモコグミカンパニー(以下、モモコ)「カズオ・イシグロ作品って、記憶をたどる回想シーンから始まる物語がすごく多いですよね。カズオ・イシグロさんは“人の記憶”に重きを置いている作家だと私は思っていて。ただそのままの事実が語られるというよりは、一人称の“語り手の思う記憶”をたどっていくところにおもしろさがある。その魅力が存分に体感できる作品だなと思いました」

奥浜「本作では、長崎時代の若き日の悦子を演じるのが広瀬すずさん。年齢を重ね、昔を回想する悦子を演じるのが吉田羊さん。悦子が語り手として、観客を物語の中に巧みに誘導していきますよね」

1980年代、イギリスで暮らす悦子は、娘のニキに長崎の思い出を語り始める
1980年代、イギリスで暮らす悦子は、娘のニキに長崎の思い出を語り始める[c]2025 A Pale View of Hills Film Partners

モモコ「そうですね。カズオ・イシグロ作品は、あえて言葉にせず、解釈を読者にゆだねるという余白のある部分が多くて。今回はお芝居の面でも、言葉にしなくても観ている人に伝わる演技、語らない演技が、キャストのみなさん、すごくうまいなと思いました」

奥浜「表情、ちょっとした目線、身体の向きや動きで細やかに感情が伝わりました。その感情によって物語がどう展開するのか、先が読めない。一挙手一投足を見ておかなければと、終始スリリングでした」

モモコ「音楽もよかったですし、映像も本当に美しくて。舞台は戦後の長崎ですが、古い時代を描いた映画というより、芸術作品を観ているような印象を受けました」

奥浜「古さを感じなかったのは、テーマも関係しているんですかね?」

モモコ「やっぱり、母と娘の物語がすごく鮮明に描かれていたので。私自身、母親にはなっていないんですけど、親子って、近くてもわからないことだらけだよねとか、母親としての不安な気持ちとか、登場人物たちのそういう感覚が手に取るようにわかりました。それは時代に関係なく、いまの自分にも通じることなので、おもしろかったです」

母と娘の関係性の描き方にも注目
母と娘の関係性の描き方にも注目[c]2025 A Pale View of Hills Film Partners


奥浜「悦子には長女の景子と次女のニキ、2人の娘がいるという設定で。長崎時代に悦子が出会った佐知子にも、万里子という娘がいましたよね」

モモコ「戦後の長崎は、希望が見えつつも、まだいろいろな問題を抱えていて、時代の変革期だったと思うんです。そんななかで、母親として、しっかりしなきゃいけないと思う女性の強さがあると同時に、実際になにを信じたらいいかわからないという不安を感じている弱さも見えたりして。悦子や佐知子のそういう揺らぎがリアルでした。

母親って、子どもからすると絶対的な存在で、とてもしっかりしている大人だと思われがち。けれども、いや、やっぱり母親も人間なんだから、不安なこともいろいろあったんだろうなって、すごく考えさせられました。うちは母娘の関係がずっと変わっていないんです。私はけっこう子どもっぽいところがあるので、親に反発しちゃうとか」

奥浜「え、いまもですか!?」

モモコ「いまだにあるんですけど(笑)」

奥浜「かわいい(笑)」

モモコ「母親のほうも私のことを子ども扱いしますし。そういう関係性も、お互いに変わらなきゃいけないよねっていうことを、この映画ですごく学べました」

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■衣装協力(モモコグミカンパニー)
ブラウス・スカート・シューズ/Randa/03-3406-3191、ピアス/STELLAR HOLLYWOOD/03-6419-7480
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