デンジのめくるめく心境の変化を表現!劇場版『チェンソーマン レゼ篇』で戸谷菊之介が見せた経験の蓄積
揺れる恋心に、激しすぎるバトル…シーンごとのデンジの心境を声で伝える
こうした様々な経験を積んだことにより、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』ではテレビシリーズでの熱演にさらに拍車がかかった。前半では美しい少女レゼとの出会いが描かれ、まるで恋愛ドラマのようなドラマチックさと「チェンソーマン」らしからぬ展開にドキドキさせられる。初めて自分に好意を寄せてくれる相手との出会い、はやる気持ち、相手の新鮮な反応にドギマギしてしまったりといったデンジのウブな側面が、非常に丁寧かつ緻密に描かれている。
マキマという心に決めた相手。自分を好いてくれていそうなレゼ。恋愛経験の乏しさもあって、これまでは本能の赴くままに流されて痛い目を見てきたデンジだが、今作では理性と欲望との間で迷いを見せるようになったのは大きな成長だろう。テレビアニメシリーズとは少し異なる、どこか人としての成長も感じられる映画でのデンジの姿からは、戸谷の進化と、デンジと真摯に向き合ってきた時間の長さを実感させられる。デンジがどちらの道を選択するのか、戸谷が演じる成長したデンジの姿にきっと誰もが引き込まれるだろう。
一転、映画の後半では“ボム”や“台風の悪魔”とのバトルが、息をもつかせぬスピーディさで繰り広げられる。デンジはまるで楽しむかのように戦い、チェンソーの力を応用するなど、戦闘のなかでも成長を遂げていく。しっとりとしたドラマチックな展開の前半、熱く激しいバトルを繰り広げる後半。変化の大きい展開に柔軟に対応し、そのなかでキャラクターを魅力的に輝かせることができるのは、きっと戸谷が前述のようにギャップが魅力的なキャラクターを数多く演じてきたからであろう。
弱虫なキャラクター、お調子者、優しい青年など、多彩な役柄を演じ分け、その心情も丁寧に見せる表現力で次々と人気キャラクターの座を射止める戸谷菊之介。「チェンソーマン」一つを取ってみても、原作を読んでいる方ならおわかりの通り、これから待ち受けるデンジのさらなる苦悩を演じるのはかなりのプレッシャーのはず。デンジの思いをどのように受け止め演じきるのか、戸谷だからこそ期待に胸が膨らむ、それだけのポテンシャルの高さが感じられる。
文/榑林史章