『時をかける少女』小説化を記念し、細田守監督×『この夏の星を見る』山元環監督の対談が実現!
「『時かけ』は、僕にとって青春の1ページ」(山元)
山元「『時をかける少女』はDVDを借りて観ました。2006年なんで、僕は中学生ぐらいで。もう映画の世界に行こうかなと思いはじめている時ではあったので、邦画とかミニシアター系の作品を観るのにハマっていて。そのなかで出会って、もともと大林宣彦監督の作品が好きだったこともあったので観たんですけど、それはもうセンセーショナルな感覚がありました」
細田「大林監督もね、自主制作出身ですからね」
山元「そうですよね。細田監督の『時かけ』は、僕にとってまさに青春の1ページになっています。監督が意識されていたかどうかはわからないんですけど、アニメ、アニメしすぎていなかったのが、当時の僕にとっては新鮮だったんですよ。実写的というか、日常のなかの構図の切り取り方が独特に感じられて。小説版も読ませていただいたんですけど、読んでからもう一度映画を観直すと、ワンカットワンカットがなにを意図しているのかの解像度がより一層深まった気がします」
細田「ありがとうございます」
山元「例えばヒロインの真琴が同級生の千昭のところに向かって走っていく横移動のシーンがありますよね。時間に追いつき、追い越したいという真琴の心情が小説版では書かれているんですけど、映画で観るとワンカットじゃないですか。カメラが一回真琴を通り越して、さらに真琴がもう一回抜き返す。小説を読むと、あのカメラの動きが時間なんだとわかる。その背景で商店街の風景が次々とスイッチしていくように切り替わって、最後に青空が現れる。その意味をもう一度噛みしめられた感じがしたんです」
細田「あのシーンをさ、実写で撮るとしたら大変だよね」
山元「あれは大変です…!でも、アニメだけど実写的な感覚はあるんですよ。カメラの存在を感じるようなワークでありながら、実写では絶対にできない表現にもなっていて。演出としては、画面の外からセリフが聞こえてくるシーンも多かったと思うんですけど、なかなかアニメでは見ない表現というか、カメラがあった上でその外側を意識させるような作りに引き込まれたんです」
細田「『この夏の星を見る』でも登場人物がカメラを見ている画があったよね?綿引先生がリモート画面のWebカメラに向かって呼びかける。カメラの存在自体を映画のなかで感じさせる、というのはそれと近いのかもしれません」
山元「だからきっと僕がものすごく影響を受けているんだと思います。中学・高校時代に観てきたものがいまの自分を構成しているなにかになっていて、そのなかに『時かけ』も『サマーウォーズ』も『おおかみこどもの雨と雪』もあるから、細田監督の作品が染み込んでいるんです」
細田「例えば大林宣彦監督の映画は、僕も学生時代に観てたけど、その影響を自分の映画に出すわけにはいかなくて。『じゃあどうするの?』ということを突きつけられる体験ではあったけどね」
山元「原作とは違うコンセプトを自分のなかでどう組み直していくか、これならいけると思えるアイデアの一つ目って重要な気がするんですよ。『時をかける少女』には原作小説も大林監督版の実写映画もあるが、アニメは細田監督ならではのオリジナルの映画になっている。ただ模倣するのではなく、自分の映画にする意味を求めたいじゃないですか」
細田「そのとおり。いまってさ、原作ものを手掛ける作り手はオリジナリティが発揮しづらいよね」
山元「そうですね」
細田「僕は自分の映画を自分で小説にしたから特に思うんだけど、小説と映画は描くことがまったく違うんです。映画では観る人に想像させるためにどういう仕掛けを作るか、みたいなところがあるんだけど、小説はまた別の方法で体験化するということをやっている。だから原作どおりに映画化する、というのはどっちにとってもよくないと思うんだよね。山元監督が偉いのは、辻村さんみたいな優秀な作家を前にして、ちゃんと自分の映画にしていること。キャラの心情というよりは、スターキャッチコンテストの場そのものを描くことにシフトしているところが、映画の独自性につながっている。辻村さんももちろんそれを理解しているし、筒井(康隆)先生もそうですけど、それでこそお互いの持ち味を引き出せるんだと思います」
「フィルモグラフィーをどう築いていくかが大事」(細田)
細田 「『この夏の星を見る』と『時をかける少女』には青春ものという共通項がありますけど、『果てしなきスカーレット』はね、予告編を観ていただければわかりますけど、血まみれの復讐劇ですから」
山元「だとしたら、僕も将来、血で血を洗う時代劇を作っているかもしれないですね(笑)」
細田「でも実際ね、監督にとってフィルモグラフィーをどう築いていくかは大事だと思うんですよ。そのなかで、スケールを少しずつ広げていくことは一つの手というか。スケールを広げるにはそれなりのお金とか信用が必要だけど、山元監督は『この夏の星を見る』でかなりの信用を手に入れたことと思うから、それをどう使うかだよね。次になにを撮るかが大事だと思うので、ぜひまた、これはいままでになかったなと思わせられるようなものを見せてもらいたいです」
山元「いや、ありがとうございます。頑張ります!」
構成/奈々村久生 文/久保田 和馬