午前2時17分、小学生17人が一斉に失踪…北米大ヒットのセンセーショナルな新感覚ホラー映画『Weapons』をレビュー!
ペンシルベニア州メイブルックの小学校でジャスティン先生が受け持つ小学3年生のクラスの17人の子どもたちが午前2時17分に突然家を飛び出し、消息不明になった。ある1人の少年を除いて。そんなナレーションでスタートするホラー映画『Weapons(原題)』は、北米で8月8日に封切られ2週連続1位の大ヒットを記録し、批評家やホラーファンからも大絶賛されている、この夏一番話題のジャンル映画だ。
監督は同じく北米初登場1位を記録した、ジョージナ・キャンベルとビル・スカルスガルド主演のセンセーショナルな低予算ホラー『バーバリアン』(22)のザック・クレッガー。クレッガーは元々俳優として活動していた人物であり、その後監督したホラーが2作連続で大ヒットというキャリアの歩みは、『ゲット・アウト』(17)、『アス』(19)のジョーダン・ピールを彷彿とさせる。
映画は、ジョージ・ハリスンの「Beware of Darkness」(なんとも映画の内容を示唆した曲名だ)が流れる不気味なオープニングから、一気にその世界に引き込まれる。主要キャラクターたちそれぞれの視点で物語が語られていく手法もユニークだ。最初に登場するのが、ジュリア・ガーナー扮する主人公ジャスティン。「なんでお前のクラスの生徒ばかりいなくなったんだ!なにか隠してるんだろ!」と学校集会で父兄たちから激しく糾弾され、魔女呼ばわりされるアル中気味の孤独な女性教師は、次第に事件の核心へと足を踏み入れていく。
続いて、ジャスティンのクラスに唯一残された少年アレックスや、独自に事件を調査する消えた生徒の父親アーチャー(演じるはジョシュ・ブローリン)、ジャスティンの元恋人の警察官ポール、ジャスティンの同僚マーカス、ドラッグ中毒のホームレス男性といった登場人物たちの各視点から物語が語られ、交錯し、次第に事件の全貌が明らかになっていく。
深夜の同時刻に突然、子どもたち17人が家を出たまま行方不明になるという設定=フックは強力である。鳥のように両腕を伸ばしながら(ガッチャマン?)、静寂に包まれる夜道を駆けていく子どもたちのビジュアルもインパクトが大きい。彼らはどこに行ってしまったのか?なぜ消えてしまったのか?唯一残された少年は何者なのか?この町にはどんな秘密が隠されているのか?『Weapons』というタイトル(=兵器)はなにを意味しているのか?知的好奇心を刺激する多くの疑問が脳裏をよぎる。
主演2人が一般層のみならずジャンル映画にもなじみがある演技派のスター、ジュリア・ガーナー( Netflixオリジナルシリーズ「オザークへようこそ」でゴールデン・グローブ賞とエミー賞受賞)とジョシュ・ブローリン(『ミルク』でアカデミー賞ノミネート)という点も心強く、この映画の格を一気に上げている。安定した抜群の演技力でキャラクターに説得力を持たせ、観る者は容易に映画の世界に安心して没入できてしまうのだ。ベネディクト・ウォンの怪演ぶりも眩しく、監督クレッガーの妻で、かつてのスクリーム・クイーン、サラ・パクストン(『ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト-鮮血の美学』『インキーパーズ』)も『バーバリアン』に続き出演している。撮影監督は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)、『ウルフズ』(24)のラーキン・サイプルだ。
アメリカの大都市ではなく、郊外の静かな町を舞台にしているだけに、町と人の怪しさも不気味さも倍増。ペンシルベニアといえば『シックス・センス』(99)や『ヴィレッジ』(04)といった多くのM.ナイト・シャマラン監督作や、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)や『ゾンビ』(78)の舞台になっているが、それよりも、同じくペンシルべニアを舞台にドゥニ・ヴィルヌーヴが監督したヘヴィなクライムスリラー『プリズナーズ』(13)を想起させるものがある。映画終盤に登場する重要キャラクターは、「ツイン・ピークス」に登場してもおかしくようなカラフルでエキセントリックな人物だが、群像劇という意味ではクレッガー監督はポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(99)からインスピレーションを受けたことを認めている(と同時に、亡くなった親しい友人にインスパイアされたパーソナルな物語だとも)。
子どもたちの失踪事件を軸に、緊迫感あふれるスリリングなミステリーとして映画は流れるように突き進んでいくが、次第にサイコロジカル・ホラーの様相を呈し、クライマックスではホラー・ファン歓喜の瞬間が訪れる。ギャスパー・ノエ~アリ・アスター作品の系譜に連なるショッキングな顔面破壊描写があり、ラストではちょっとびっくりするような強烈でユニークなゴア描写も飛び出す。虚を突く効果的なショック描写をどこに仕込むか、どれぐらい披露するか、どこまで見せるか、というバランスもよく計算されており、全体的に洗練されたイメージもあり、そこも北米で大ヒットした要因の一つではないかと推測する。このヒットを受けて、早速プリクエル作品の企画開発が進められている。
今年はワーナー配給のホラーの大ヒットぶりが顕著だ。『Final Destination: Bloodlines(原題)』、『罪人たち』、そして『Weapons』という3作が北米で1位を記録し、世界的にヒットしている。日本で『Final Destinations:Bloodlines』は劇場未公開(『ファイナル・デッドブラッド』の邦題で10月22日にデジタル配信スタート&Blu-ray+DVDセット発売)になってしまったが、『Weapons』はなんとか公開されることを切に願いたい。
文/小林真里