『時をかける少女』小説化を記念し、細田守監督×『この夏の星を見る』山元環監督の対談が実現!
「いつかコロナ禍を知らない世代が観たとしても、この映画は楽しめる」(細田)
細田「特におもしろいなと思ったのは、辻村さんの原作小説はもっとキャラクター愛が強く感じられると思うんですよ。でもこの映画はそこに一定の距離を持っているように見えて、それがすごく上手くいっていた。さらに映画館で星空観察を同時体験できるという側面もある。そうした切り口はどこから思いついたんですか?」
山元「コロナ禍の時代にディスタンスという概念が生まれましたよね。心の距離もそうですし、人間同士の物理的な距離感、県をまたいでの移動ができないとか。個人個人が感覚的に分断されていく時代だったなと思うんですよ。それを映像化する時に、単純に一対一のキャラクター間の距離を見せてもあんまり意味がないなと。映画全体の根底にその距離感みたいなものを引く、要はカメラの位置も含めて計算しないと伝わらないなと思いました。それとの対比として、はるか彼方の宇宙に星空がある。そのことを説明し尽くすのではなく、感じ続けてもらう2時間にすることで、この映画を理解していただけるように意識しました」
細田「おそらく原作を読んだ感じと、映画を観た感じが、いい意味でちょっと違うんじゃないかなと思っていて。というのは、ほとんど登場人物が全員マスクをしていて、そんな映画ってほかに見たことがない。例えば先生方がオンライン会議をしている時もマスクをしている。オンラインだから外してもいいんだけど、誰がどういうマスクをしているのかも含めてキャラになっているから、マスクを取ったら別の人になっちゃう」
山元「はい」
細田「マスクによって抑圧された学生の気持ちはたしかにあると思うんだけど、一方で映画的に見れば、これまでにない表現を生み出したことになる。名の知れている俳優さんでも、マスクによってそれがあんまり前に出てこないというか、本当に劇中の高校生として出会っている気持ちになれるのも、この映画ならではの体験だと思います」
山元「コロナ禍の時って、仕事でもマスク姿で出会って、最後まで素顔を見ないままお別れする人がいたりしましたよね」
細田「この映画ではそれが寂しいっていうんじゃなくて、それも含めての人物がポジティブに描かれているのがいいところだと思うんだよね」
山元「ありがとうございます。観ている間はあの時代にタイムスリップするというか、当時の感覚を思い出しながら、『この人のマスクの下の表情はどうなってるんだろう?』と常に考えてもらえる2時間にできればいいなとは思っていて」
細田「東京の中学校で理科部に所属している中井天音(星乃あんな)が、本編のなかで一瞬マスクを下げて口を見せるシーンがあるんだけど、『逆にこんな顔だっけ?』と思うぐらいにちゃんとマスクをしたキャラが成立している。そういう意味ではね、いつかコロナ禍を知らない世代が観たとしても、この映画は楽しめるんじゃないかなと思いました。コロナ禍が遠い過去のことになってもずっと観てもらいたいでしょう?」
山元「はい、それはもう」
細田「コロナ禍そのものだって、重く描こうと思えばいくらでもできるんだけど、辻村さんの書き方も含めて、必ずしもそうではない方法というのかな。人間を描くための方法として、たまたまその時期だったと思えるところがいいんですよね。僕は自分もスターキャッチコンテストに参加させてもらった感覚になれたことがよかったな。しかも映画館という場所で観ると、よりダイレクトに参加した気持ちになりません?というのも、映画館の暗闇で観るからこそちょうどいい暗さになっているんですよ。ここまで画面を暗くするかと驚きました。結構挑戦的な暗さだと思うんです」
山元「星空のビジュアライズは、この映画のオリジナリティとして一番こだわったところかもしれません。実写でリアリティを追求するよりも、どこかファンタジーというか。みんなの心のなかにあるいつか見たことのある風景、感じたことのある美しかった記憶や色みたいなものを、実写のなかで浮いた表現になりすぎないように、というのは意識していました」
細田「それ、すごく上手くいってるんじゃないかな。歴史上、星座観察会がテーマの映画って多分これまでにないよね。なぜなら、星空は(技術的に)写らないから」
山元「そうなんです、だからVFXで作るしかなかったんですよ」
細田「だとしても、実際の臨場感を大事にした作り方に見えたのがよかった」
山元「現場でも一度挑戦はしたんです、本物の星空を撮れないかと。でもやっぱりまったく写らなくて。観測の記録映像としてはよくても、映画としての感動的な色合いにはなっていなかった。結果としてVFXを使って表現した部分は、アニメ的な影響を受けているかもしれません」
細田「アニメだったらなんでも描けてしまうので、逆にあんなに暗くはしないんじゃないかな。どちらにせよ、それをやったのがよかった。観た人それぞれに、暗闇のなかで星を見上げた時の気持ちがよみがえるような体験になるんじゃないかと思う」