私生活でも大親友!韓国が誇る国民的“ハルモニ=おばあちゃん”女優、『最後のピクニック』ナ・ムニ&キム・ヨンオクの軌跡

コラム

私生活でも大親友!韓国が誇る国民的“ハルモニ=おばあちゃん”女優、『最後のピクニック』ナ・ムニ&キム・ヨンオクの軌跡

アカデミー賞受賞女優からも敬愛されるキム・ヨンオク

一方のキム・ヨンオクは1938年生まれ。演劇少女だった彼女は、放送局のアナウンサーを経て声優の道へ(先述の通り、ムニとはMBC声優劇会の同期生)。アニメの少年役に重宝され、「マジンガーZ」の兜甲児役、『テコンV』(76)のキム・フン役などの主役キャラを演じることが多かったという。1960年代から映画出演も始めるが、現在まで圧倒的本数を誇るのは、やはりドラマ出演作だ。近年だけでも「海街チャチャチャ」、「イカゲーム」、「カジノ」など、話題作に続々と出演。あらゆるタイプの作品に対応できるバイプレイヤーとしての業界内での信頼度の高さがうかがえる。

近年も「海街チャチャチャ」など話題のドラマに続々と出演するキム・ヨンオク
近年も「海街チャチャチャ」など話題のドラマに続々と出演するキム・ヨンオク[c]tvN

劇場作品で印象深いのは、ウンギョン演じる主人公のやたら口の悪い祖母をコミカルに演じた『サニー 永遠の仲間たち』(11)だろう。ここでも強烈な全羅道訛りを披露している(ちなみに本人は京畿道京城省=現在のソウル特別市鍾路区出身)。かつて声優として少年キャラを得意としただけあって、どこか不良っぽさと愛嬌を共に感じさせる個性の持ち主でもあり、Netflix映画『バレリーナ』(23)では、ヒロインに火炎放射器を薦める武器密売屋夫婦の妻役に扮している。年季の入ったアウトローの風格を自然体で醸しだせる80歳代の女優は、言うまでもなく貴重な存在である。

キム・ヨンオクがヒロインに火炎放射器を薦める武器密売屋夫婦の妻役で登場した『バレリーナ』
キム・ヨンオクがヒロインに火炎放射器を薦める武器密売屋夫婦の妻役で登場した『バレリーナ』[c]Netflix

最後のピクニック』でも、鍛え上げた反骨心を匂わせる豪快な方言混じりのセリフ回しで、働き者のおばあちゃんを快演。その芝居に瞬発力と若さを感じるのは、ほぼ毎日のようにドラマの現場で若いスタッフやキャストと触れ合っているからだろうか。『ミナリ』(20)でアカデミー賞助演女優賞を獲得した名女優ユン・ヨジョンも、10歳年上のヨンオクを「私のロールモデル」として敬愛しているという。

旧友たちと再会し、カラオケに興じる(『最後のピクニック』)
旧友たちと再会し、カラオケに興じる(『最後のピクニック』)[c] 2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved.

韓国クラシック映画ファンにはたまらない!キャスティングが奏でるアンサンブル

『最後のピクニック』は、バイプレイヤーとして唯一無二の“味”を獲得してきた2人のベテラン女優が、主演俳優としてそれぞれの個性を存分に発揮した集大成的作品としても堪能できる。なお、ウンシムとグムスンの旧友で、劇中で「かっこいい歳の取り方をしたよね」と称賛されるテホ役のパク・クニョンも、映画やドラマで長年のキャリアを誇る85歳の名優だ。本作での軽妙な好演は、主演作『チャンス商会〜初恋を探して〜』(15)での演技も凌ぐほどである。また、リゾート開発反対派仲間の酔いどれ親父ヨンベ役のハン・テイルも、1960年代から活躍する名脇役俳優。娯楽映画の名匠イ・ドゥヨン作品の常連俳優としても知られ、韓国クラシック映画ファンにはたまらないキャスティングだ。


奇しくも、今年3月の第20回大阪アジアン映画祭で上映されたパク・イウン監督の新作『朝の海、カモメは』(24)も、海辺の町に暮らす年老いた主人公を描いた社会派ヒューマンドラマの傑作だった。今後、韓国映画界にシニア世代をテーマにした秀作が次々と生まれる予感も、この2作品は伝えているのかもしれない。


文/岡本敦史


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