マイカ ピュと『不思議の国でアリスと』を生んだ富山にあるアニメスタジオP.A.WORKSに潜入!

マイカ ピュと『不思議の国でアリスと』を生んだ富山にあるアニメスタジオP.A.WORKSに潜入!

キャラクターデザイン、作画監督を担当した川面恒介にインタビュー!

キャラクターデザイン&作画監督を務めた川面のデスクには資料がいっぱい!
キャラクターデザイン&作画監督を務めた川面のデスクには資料がいっぱい!

制作当時は、「不思議の国のアリス」を日本で初めて映画化した劇場アニメ作品という意識はあまりなかったという川面。「『不思議の国のアリス』をモチーフとして使っているくらいの感覚でしたが、作品が出来上がって宣伝が始まった時に気づいて。そっか、そうだよな」と実感したことを明かす。そのため、現代の解釈で新しいアリスの物語を届けることについてのプレッシャーは当時はなかったという。

現代版にアップデートされた、新しいアリスの物語が完成
現代版にアップデートされた、新しいアリスの物語が完成[c]「不思議の国でアリスと」製作委員会

「キャラクターのデザインは、社内のデザインチームが設定資料に使えるくらいの完成度で形に起こしてくれたので、自分はアニメーション用に起こす際の調整に注力しました」。アリスのデザインに関しては、製作側からもこだわりのリクエストがあったと明かす。「まずはヘアスタイルのボリューム感。女性が見てもちゃんとかわいいと思えるものにしてほしいと。ボリューム、カール感、おでこはどのくらい見せるかなど、かわいいさだけでなく、媚びないデザインで、かつおしゃれなことも大事に意識しながら、調整を入れていきました」とやりとりを振り返る。

活発なアリスのデザインは「軽やかさ」をポイントにしていた
活発なアリスのデザインは「軽やかさ」をポイントにしていた[c]「不思議の国でアリスと」製作委員会

最初は少しおとなしめのデザインにしていたというが、「アリスは元気で前向きな子。そこを全面に押し出してほしいとオーダーがあって、スカートの動きなどにも工夫をしていきました。レースがたっぷりの衣装を僕が素直に描いてしまうと、どうしてももっさりとした重さが出てしまいがち。でもアリスは活発な子だから、軽やかな感じにしたいということで、スカートの広げ方などにはかなりこだわりました。原作の時代設定なら、スカートの下に骨組みを入れて膨らますといった描き方もありだと思いますが、今回は、イメージだけを抽出し、現代の表現で描いています」。りせの衣装をパンツスタイルにしたのはアリスと並んだ時のバランスだという。りせの衣装に関しても「おしゃれには疎いので、いろいろな写真をネットで検索しました(笑)」。

りせがパンツスタイルになったのは、アリスと並んだ時の”バランス”がポイントだったから
りせがパンツスタイルになったのは、アリスと並んだ時の”バランス”がポイントだったから[c]「不思議の国でアリスと」製作委員会

本作は、ファンタジーの世界を描きつつも、現代的な解釈の新しいアリスの物語。細かな調整はいろいろあったというが、「デザインチームにセンスのあるスタッフがいたので、いまっぽさを取り入れるのは彼女におまかせでした(笑)。出来上がったものを見て、納得する感じです」とチームで作り上げたデザインだと強調していた。「通常原案は線の粗いものや描き込みがいろいろ必要なものも多かったりするけれど、キャラクター原案の高田(友美)さんから出てくるものはほぼ完成に近かったので、迷うことなくそのまま使わせていただきました」と制作を振り返る。
「原案を挟まずデザインをする方もいるし、原案をもとにアニメーションを作るパターンもあります。この後の工程に進むほど、描く人数がすごく増えるので、線や影の量などを含めて統一するための基準となるものが必要になります。それがアニメーション用の設定。それを起こす仕事が自分の担当していたところです」と重要な役割を担っていたことが伺える。

ハートの女王のドレスの柄、装飾、ひらひらの分量は原案の段階から「大変さ」に予想がついたという
ハートの女王のドレスの柄、装飾、ひらひらの分量は原案の段階から「大変さ」に予想がついたという[c]「不思議の国でアリスと」製作委員会

特に手間がかかったキャラクターは「ハートの女王」だったそう。「原案の段階で、柄や装飾、スカートのひらひらの量は大変だよねという話は出ていて。大変だけど減らすわけにはいかないし、全部描くとしても今度はアニメーションとして動かすのが大変になります。この作品に限らずですが、情報量が減りすぎない様にバランスをとりながらアニメーション用に整理するところの調整で、結果的に作業が大変になったキャラクターです。結構な作画量だったので、作画担当は本当に大変だったと思います」と労っていた。

川面が考える“P.A.WORKSらしさ”は「まじめさ」

川面自身は、P.A.WORKSらしさやアニメーション制作会社としてのカラーをどのように捉えているのだろうか。「自分自身は、作画をする時に“らしさ”を意識することはありませんが、画面の綺麗さに触れた視聴者の声を聞くことが多いと感じているので、その一部である作画としておかしなものにならないように、というのは無意識に意識しているかもしれません。中にいる人間として、P.A.WORKSらしさを感じるのはまじめさ。スケジュールに対する意識と、仕事に取り組む姿勢がまじめな人が多い気がします。まじめすぎて作業が大変になることもあるけれど、どんなに大変なカットでも地道にやってくれるスタッフが多いので、そういったところを制作側が頼りにしているのかなと思っています」と分析。まじめに取り組める理由は「好きでここにいるから」。「これまでもやりたくないなと思う作品が回ってきたことはありません。好きでいる場所だから頑張ろうと思えるのかもしれない」。


『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は8月29日(金)公開!
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は8月29日(金)公開![c]「不思議の国でアリスと」製作委員会

すごく個人的な話だと前置きした上で、富山県にあるスタジオでアニメーション制作することのメリットも打ち明けてくれた。「もともと東京で働いていたのですがアトピーがひどくなって。ちょっと環境を変えてみようかと思い切って富山に来てみたら治りました。たまたまかもしれないけれど、水が合っていたのかな、なんて思っています。夏は暑いし、冬は雪もすごいし、周りにはお店もないし、アニメの放送が東京より遅い…みたいなところはあるんですけれど(笑)、僕はとても過ごしやすく感じています。人混みには無縁だし、スタジオから見える場所にゲレンデもあるので、スキーやスノボが好きならいい環境だと思います。人によっては、そういったことが息抜きになっているのかなとも感じています」。

取材・文/タナカシノブ

※キャラクター原案・高田の「高」は「はしご高」が正式表記

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