韓国で35万人が感動した『最後のピクニック』キム・ヨンギュン監督が語るヒットの要因「高齢世代の主人公の人生を視聴者が繊細に感じている」

韓国で35万人が感動した『最後のピクニック』キム・ヨンギュン監督が語るヒットの要因「高齢世代の主人公の人生を視聴者が繊細に感じている」

ソウルに暮らすウンシム(ナ・ムニ)は、故郷・南海へ60年ぶりに帰郷。親友・グムスン(キム・ヨンオク)の元へ身を寄せる。同窓生たちとの再会で甘酸っぱい記憶を思い起こしながらも、ウンシムがふるさとから離れなければならなかった16 歳の頃の出来事と、波乱に満ちた人生が明かされていく――。『最後のピクニック』(9月12日公開)は、“ピクニック”という、そののどかな響きからは想像できないような重みをも内包しながらも、宝石のようなヒューマンドラマだ。その輝きは目の肥えた韓国の観客を魅了した。多彩なジャンルでその手腕を発揮してきたキム・ヨンギュン監督は、なぜ“老い”をテーマとした本作を選んだのか。作品との出会いから、主演のナ・ムニやキム・ヨンオクとの撮影秘話や音楽へのこだわり、韓国映画界への想いまでを語ってもらった。

実生活でも親友同士のナ・ムニとキム・ヨンオクだからこそ出せる息の合ったやり取りに惹きつけられる
実生活でも親友同士のナ・ムニとキム・ヨンオクだからこそ出せる息の合ったやり取りに惹きつけられる[C]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved.

「ナ・ムニさんとキム・ヨンオクさんは撮影が終わるといつも、お酒を飲まずにカラオケへ行くんです」

キム・ヨンギュン監督は、数年の内に自身の両親と義理の両親を亡くしたという困難な時期を乗り越えようとしている最中に、本作の脚本と出会った。物語の情感と悲しみが、彼の心をさらに動かしたという。なかでも、老年期の人々のリアルな生活と会話が、非常に鮮明に描かれていたことが印象的だったと語っている。生きていれば老いは必然だが、演じるナ・ムニ、キム・ヨンオクら主人公たちと同世代の二人にとってはかなり現実問題に踏み込んだテーマであり、演じることに勇気が必要だったのではないだろうか。

「私も経験がありますが、たとえば勇気のいる場面を演技する時、シナリオにすべて書いてあってもちろん分かっていても、いざ撮影現場に来るとどうすればいいのか分からないと言って避けたくなったり、あるいは感情を前面に出したりする場合が、女優の方々にはどうしてもあります。でもこの映画は特別でした。ナ・ムニさん自らがこの映画を作りたいですと仰ってくださり、そして自然とキム・ヨンオクさんもオファーを受けてくださったんです。お2人はプライベートでもとても親しい先輩後輩なんですよね。 そんな深い友情をこの作品を通じて表現したいと思いました」。

オファーを受けたナ・ムニが、実生活でも親友のキム・ヨンオクを相手役に推薦
オファーを受けたナ・ムニが、実生活でも親友のキム・ヨンオクを相手役に推薦[C]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved.


もう一つ注目すべき要素は、女性同士の恋愛感情をごく当たり前のように描いている点だ。近年ヒットした『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』(24)など、韓国映画でもクィアなキャラクターが描かれることが多くなった。ただ一方で、劇中でも同級生の一人がののしるシーンからわかるように、まだ観客の中には、こうした女性同士の恋愛感情を肯定的に描くというところに、 否定的な世代の方もいるだろう。こうした懸念についても、ナ・ムニとキム・ヨンオクの二人だからこそのハーモニーと演技力のおかげで自然に演出できたという。

「2人の深い友情のおかげで、他の作品とは違い特にディレクションをしなかったんです。俳優たちの演技を最初に見る観客が、監督ですよね。そんな立場でコメントをしたり、その方々が楽に演技できるようにコンディションを調整するのが最優先。その後でテクニックとしてのディレクションを使うことで、俳優たちがカメラの前でリラックスできるんですよね」。


「2人でなければ出演しない」ときっぱり宣言したというほど、実の姉妹のようだったというナ・ムニとキム・ヨンオク。撮影中も2人の絆を感じたそうだが、「もちろんお2人とも本当に仲が良いので一緒に食事をしたり、おしゃべりをしたりされていたのですが、私が一番印象的だったのはまた別の瞬間なんです」と明かしてくれたことがある。

【写真を見る】人気ボーイズグループ・MONSTA Xの熱烈なファンとして知られるキム・ヨンオクのカラオケシーン
【写真を見る】人気ボーイズグループ・MONSTA Xの熱烈なファンとして知られるキム・ヨンオクのカラオケシーン[C]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved.

「南海はソウルと遠く離れている島村です。ナ・ムニさんは南海に1か月半滞在しました。キム・ヨンオクさんは他の仕事のスケジュールを組んでソウルに行ったり来たりしてました。それで撮影が終わるといつも、お酒を飲まずお2人でカラオケへ行って、お互い歌いたいものを4曲くらい歌うんです。ストレス解消できる唯一の娯楽だったんですよね。それじゃあと僕が横でタンバリンを打ち鳴らすと(笑)、お2人もリズムを合わせてくださるんです。いま考えてみれば、ベテラン俳優で演技の達人なんですが、もしかしたらこの作品に一層集中するための努力の一つだったのかもしれません。お2人とも本当に親しかったので、そういうことが互いに上手く作用したのではないでしょうか」。


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