西島秀俊『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』完成報告会見で初共演のグイ・ルンメイから受けた刺激を明かす「どういう俳優が理想なのか改めて考えさせられた」

西島秀俊『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』完成報告会見で初共演のグイ・ルンメイから受けた刺激を明かす「どういう俳優が理想なのか改めて考えさせられた」

映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(9月12日公開)の完成報告会見が8月5日、7月27日に閉館した丸の内TOEIにて開催され、西島秀俊グイ・ルンメイ真利子哲也監督が出席した。

【写真を見る】劇中に登場する人形も会見に登場。人形の手を引くグイ・ルンメイとその様子を見つめる西島秀俊、真利子哲也監督
【写真を見る】劇中に登場する人形も会見に登場。人形の手を引くグイ・ルンメイとその様子を見つめる西島秀俊、真利子哲也監督

本作は、オールNYロケで制作された日本×台湾×アメリカ合作で贈る極限のヒューマンサスペンス。ニューヨークで暮らすアジア人夫婦に突如として起こった“息子の誘拐”という悲劇をきっかけに、崩壊していく夫婦の姿が映し出される。西島とルンメイが初共演で夫婦役を演じた。会見では、本作のテーマ”廃墟”にちなみイベント会場が丸の内TOEIになったこともか明かされた。

オファーを振り返り「監督のファンだったので」と答えた西島。企画を受け、脚本を読み感じたのは「文化の衝突、家族の関係の難しさなど、いま、まさに(多くの人が)直面している解決法が見つかっていないテーマが多く含まれている脚本だったので、映画の撮影を通して、そういう問題に自分自身も立ち向かってみたいという想いがありました」と伝える。

西島が演じたのはニューヨークで暮らす日本人の賢治
西島が演じたのはニューヨークで暮らす日本人の賢治

「オファーは大変光栄でした」と笑顔のルンメイは「ユニークなのは廃墟を舞台にしていたり、パペットが登場もある」とし、「役柄の内心の世界を特別な方法で表現しているところに興味を持ちました」と惹かれたポイントを語る。西島とルンメイが演じている夫婦は「国籍も言語も違う。だけど愛があるから結ばれた。にもかかわらず、いろいろな隔たりをどう乗り越えるのか、どう前向きになっていくのか、という点にも惹かれて参加しました」と出演の決め手を説明した。

久しぶりの来日を「とてもうれしく思います!」と挨拶したグイ・ルンメイ
久しぶりの来日を「とてもうれしく思います!」と挨拶したグイ・ルンメイ

初共演となるルンメイの印象を「とてもすばらしい俳優さん。すべてを作品に投げ出す方です。1か月間の撮影でも休みの日も役に集中していました。とにかく丁寧に準備をしている方。本番で向き合った時に、こんなにナチュラルに演技をする人がいるのかと本当に感動しました」と絶賛の西島。さらに「テンションの高いシーンでも静かなシーンでも集中力をまったく切らさずに挑んでいた。どういう俳優が理想なのかと改めて考えさせられた俳優さんです」とルンメイから刺激を受けたことを明かした西島。

西島からの称賛に日本語で「ありがとうございます」と照れた表情を見せたルンメイは「西島さんのファンの一人」とニッコリ。西島の出演作もほとんど観ているそうで「どの作品も好き」と役者としてお互いを認め合う2人。共演を通して「見た目は落ち着いているけれど、心の中にはものすごいエネルギー、力を持っている人。芝居をするたびに、芝居そのものは変わっていないけれど、リアクション、表情など(細かい部分)が変わっている。毎回異なるエネルギーを浴びて、それを受けて芝居をすればいい現場でした」という感想を持ったそうで、「現場に向かう時は万全の準備をしてたうえで、西島さんからのエネルギーを受けながら自由自在にお芝居をすればいいと思ったし、させていただきました」と充実感を滲ませていた。

フォトセッション時も仲良く会話をしていた
フォトセッション時も仲良く会話をしていた

真利子監督については「人間の根源的なエネルギー、本能的なものをどこか突き詰めている。それが哲学的に感じることもある」と語った西島。本作については「いままでは物理的なぶつかり合いみたいなものを描いていたと思うけれど、今回は次の場所に向かったんだなみたいな気がしました、ファンとして」といちファン目線での感想をうれしそうに伝えていた。

真利子哲也監督は西島、ルンメイのオファー理由も明かした
真利子哲也監督は西島、ルンメイのオファー理由も明かした

真利子監督の現場は「何度もテストを繰り返し、すべてのカメラと俳優の動きが揃った瞬間を待つっているタイプではない」と分析した西島。続けて「一見、失敗に見えるようなことも、そういったことから生まれてくるようなものも新鮮に捉えようとしている気がします。生々しい瞬間のような感じです」と解説。ルンメイは「すばらしい耳を持っていると思いました」と話し、その理由について「話しているトーン、声調から敏感なものを受け取っている。発しているセリフの中から、情感、表現を感じ取り、調整をして我々の演技を引き出すというのはとても独特でした」と真利子監督の演出の魅力を語っていた。

真利子監督は「自分でも震え立つような映画になりました」とコメント
真利子監督は「自分でも震え立つような映画になりました」とコメント

会見には劇中に登場する人形も登場。本作で人形劇を扱った理由について真利子監督は「アメリカ滞在中にカルチャーショックがありました。アメリカの人形劇は子ども向けではなく大人向けのものもある。大きな人形のパペットショーがあって惹かれたので、身体的表現にも使ってみたいと思いました」と説明していた。また、セリフのほとんどが英語で、夫婦の共通言語も英語にしたのは「すごく思い合っているからこそすれ違ってしまうというのを描きたかった」と返し、「言いたいことも言っているけれど、すれ違っている。そういうことを描くのに(英語は)有効だった」と回答。夫婦関係は日本語でも異文化コミュニケーションのようなものというMCの言葉に真利子監督は「どの言語でもあり得ること」と答えていた。

ニューヨークでのロケを敢行
ニューヨークでのロケを敢行

最後の挨拶で、真利子監督は「自分でも震え立つような映画になりました」とコメント。ルンメイは「愛があるからこそ関係が崩れて、壊れて、再建に向かってどのように努力しているのかというのを中心に描かれています。いろいろな感想を持つ作品だとは思うけれど、結末はこれでいいと思っています。それぞれの立場で感じ取ることができればいいと思います」とアピール。「過去にとらわれてなかなかそこから抜け出せない人、自分が生きていくうえで(自分にとっての)かけがえのないものがどうしても周りから理解されないと、やりたいこととのいろいろなバランスが取れない人などに観てほしいです」と呼びかけた西島は「映画の中で懸命に生きている登場人物たちが、生々しく生きて困難を乗り越えていく映画です。そんな人たちの姿を観に(映画館に)足を運んでください」と想いを伝え、イベントをしめくくった。


取材・文/タナカシノブ

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