ノーベル賞作家カズオ・イシグロも大絶賛!『遠い山なみの光』吉田羊演じる悦子をとらえた新場面写真を公開
ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの同名長編デビュー作を石川慶による監督、脚本で映画化した『遠い山なみの光』(9月5日公開)。今回、吉田羊の新場面写真とインタビューコメントが到着した。
日本人の母とイギリス人の父を持ち、ロンドンで暮らすニキ。大学を中退し作家を目指す彼女は、戦後長崎からイギリスへと渡った母、悦子の半生を綴りたいと考える。娘に乞われた悦子は、30年前の戦後復興期の活気あふれる長崎で出会った女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出を語り始める。初めて聞く母の話に心を揺さぶられるニキだったが、なにかがおかしい。彼女は母の語る物語に秘められた“嘘”に気づき始め、やがて知られざる真実に辿り着く…。
本作の主人公、悦子を広瀬すず、悦子が長崎にいた頃に出会う、謎めいた女性であり幼い娘と暮らす佐知子を二階堂ふみが演じる。そして、長崎を離れイギリスで暮らす1980年代の悦子を吉田が演じ、広瀬演じる1950年代の悦子の約30年後を体現する。
今回、吉田演じる「悦子」の憂いに満ちた謎多き表情を捉えた場面写真が解禁となった。写真には、イギリスの自宅の売却を決め、荷物を整理するなか、次女のニキに乞われ、ずっと口を閉ざしてきた過去の記憶ひと夏の思い出を語りだす悦子の姿が写されている。また、悦子とイギリス人の父の間に生まれ、大学を中退して作家を目指すニキとイギリスの自然をバックに2人並ぶ親子でのショット、さらになにかに向かって深い眼差しを向ける悦子の憂いを秘めた表情がとても印象的なアップのカットなど、物語の軸となる難しい役どころとなった「悦子」をミステリアスかつ奥深く演じる吉田の姿が切り取られている。「悦子が現れた」とイシグロ氏も絶賛した吉田の魂の演技に期待が高まる場面写真となった。
悦子役のキャスティングは、製作に加わったイギリスのプロダクションNumber 9 Films主導でオーディションが行われるも、たくさんの候補者がいるなかで、決め手に欠けていた。そこで石川監督から「吉田羊さんにお願いしたい」という要望が出て、吉田ほどのキャリアを積んだ俳優にオーディションへの参加を依頼するのはためらわれたものの、吉田はすぐに英語の台詞で演じるテープを送ったという。石川監督と日英プロデューサー陣がテープを見て、全員一致で即決となった。
撮影前から単身イギリスに入り、数週間ホームステイをして英語のレッスンを受けるなど渾身の想いで本作に挑んだ吉田。はじめての全編英語での演技という難しい環境にもかかわらず、撮影前の滞在で生活者としての視点を得たことで英国チームのスタッフたちにも自然に溶け込み、常に現場を引っ張っていたという。そんな吉田に対して、石川監督は「頼りっぱなしでした。長崎パートの映像をすべて吉田さんに送って、長崎の悦子から30年後の悦子を吉田さんなりに作ってくださいとお願いしました。内心、相当な無茶ぶりだと反省していたのですが、僕がイギリスに着いた時には、非常に説得力のある悦子を既にご自身の中で作ってらっしゃったので、さすがだなと安心しました」と語る。
さらに撮影現場に訪れた原作者のイシグロは、吉田を見て「悦子が現れた」と喜んだという。吉田は白玉粉と抹茶の粉を現地で調達して日本のお団子を作りイシグロ氏とスタッフにふるまったといい、「演技に集中しながらも、そういう海外の現場でのフレッシュな体験を全力で楽しまれている。素敵だなと思いました」と福間プロデューサーも語る。
また、吉田は『愚行録』(17)をはじめ石川監督の作品が好きで以前より観ており、たまたまある映画イベントで以前、石川監督に会って以来その人柄に触れ「いつか一緒にお仕事がしたい」と目標にしていたという。そんななか、本作のオファーを受けた時の心境について「自分の人生にこんな奇跡が起こるのかと思うほど本当に嬉しく、また今回イギリス側に私の大好きな映画『キャロル』を作られたNumber 9 Filmsが入られると聞いて、本当にいまだにふわふわして現実味がないというのが正直なところです」と、現場で喜びの言葉を口にしていた。さらに本作について「自分らしく生きようとする女性たちの逞しさが美しく胸に響いて、悲しみとともにある希望に、すごく勇気づけられる映画だと思いました」とコメント。さらに「私の父が長崎の出身で、父が5歳の時に原爆を経験していますから、原作を拝読した時に真っ先に浮かんだのがやはり父のことで、その長崎にルーツを持つ私だからこそ感じられるものもあるのかなと期待しながら、今回この作品に入らせていただきました」と語っており、吉田にとってまさに運命的な役柄、作品となったことがコメントからうかがえる。
終戦間もない長崎という、まだ過去にしきれない「傷跡」と未来を夢見る圧倒的な「生」のパワーが渦巻いていた時代を生き抜いた女性たちの姿を鮮明に描き出す本作。先の見えない時代を生きる人々に勇気をくれる感動のヒューマンミステリーに期待が高まる。
文/鈴木レイヤ