『星つなぎのエリオ』で戦士を演じた松山ケンイチ。鎧を脱いで“楽しむことを軸に歩む現在地”を語る
「若いころは、ガチガチに鎧を着ていた」
鎧に身を固めたグライゴンだが、松山も「若いころは、ガチガチに鎧を着ていたと思う。“こうしなければ”と思って、そのなかで一生懸命にもがいていた時期があります」と告白する。
映画やドラマ、舞台など活躍の場を広げつつ、俳優として唯一無二の存在感を発揮してきた松山。そんな彼にとって、役作りというのは「精神的にも肉体的にも、削っていく作業ではある」といい、「俳優ならば、24時間、全身全霊で役に向き合っていなければいけないと考えていました。でもだんだんと、年齢を重ねるごとに『楽しんでいこう』という気持ちがなければ続かないと思うようになった」と考え方に変化が生まれたと回想。「どこか開き直っているというか、いまはもう鎧を着ていないですからね」と茶目っ気たっぷりに目尻を下げる。
俳優業に精力的に取り組む一方、SNSやYouTubeなどを通して素顔も披露するなど、「鎧を着ていない」という言葉通り、いまの松山はより軽やかに人生を謳歌しているように感じる。「いろいろな遊びを試しているところです。いまは遊ぶことが仕事というか、仕事でもなんでも楽しくするためにはどうしたらいいかということを一番に考えています。それが俳優業にどのような作用を起こしているのか…それがわかるのはずっと先のことかもしれませんが、いまは“楽しくすること”を軸に日々を過ごしています」。
そして東京と田舎の二拠点生活を始めたことも、肩の力が抜けた大きな要因になっていると続ける。「それぞれの場所でやりたいことがあって、それぞれの場所で付き合う人も変わってくる。そうするとおもしろいものがたくさん見えてきたり、考え方の幅が広がってきたりもする」と視野を広げることができたという松山は、「また自分の居場所をいくつか持つことは、ある意味で逃げ場所も増やすことにもなると思うんです。やっぱりひとつの場所で戦い続けるのは、大変なことですから。自分の心を守り、精神的なゆとりを確保するためにも、いろいろな場所に行って人と話したり、いろいろな存在に触れ合っていたい」と語る。
様々な場所でのコミュニケーションを栄養にするなど、心に気持ちのよい風が吹いている様子の松山だが、もしエリオのように宇宙へと飛び出したとしても「エイリアンにインタビューをしたいですね」と希望。「いまも山にいる鹿や熊など、野生動物の気持ちがわかったらいいなと思うことがあって。本作のなかに、相手の言葉がわかるようになるバッジが出てきますよね。あれ、すごくほしいです。野生動物であれ、エイリアンであれ、きっとあちらの言い分もあると思いますから。そこで自分が気づくこともたくさんあると思うので、あらゆる惑星のエイリアンと話をしてみたいなと思います」と夢見ていた。
取材・文/成田おり枝