「ウェス・アンダーソンの作家性が爆発」「ひと言で言うなら、観る美術館」原点回帰的最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』に魅了されるワケ
『グランド・ブダペスト・ホテル』(13)、『アステロイド・シティ』(23)などを手掛け、映画ファンからの根強い人気を誇るウェス・アンダーソン監督の最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(9月19日公開)。ヨーロッパの架空の国を舞台に、悪名高い大富豪が疎遠になっていた娘を連れて資金繰りの旅に出る。アンダーソン監督の代名詞ともいえるこだわりの美術や衣装、建築とそれらを捉える独特な画作りから生まれる映像美、豪華キャストの競演は今回も健在だ。公開に先駆けて試写会で本作を堪能した映画ファンによる、「アンダーソン作品は初心者ですが、もっと観たくなりました!」「贅沢な映画体験が約束された大傑作!」「ウェス・アンダーソンの世界観に入り込んでいる瞬間がたまらなく幸せ」といった絶賛コメントがすでにSNSをにぎわせている。これらの印象的な感想コメントをピックアップしながら、石川三千花による描き下ろしイラストと共に本作の魅力に迫っていきたい。
悪名高い実業家が計画する莫大な利益を生む「フェニキア計画」とは?
時は1950年代、“現代の大独立国フェニキア”。国際的な実業家で大富豪のザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)は兵器と航空界の異端児と呼ばれ、長年にわたって脱税やワイロの疑念が付きまとう悪名高さから何度も命をねらわれてきた。そんな彼にはキャリアの集大成となる野望があった。フェニキア全域に及ぶ陸海の3つのインフラを整備する大規模プロジェクト「フェニキア計画」だ。
計画が成功すれば向こう150年にわたって利益を生み続け、彼の一族はますます繁栄することになる。そこでザ・ザは、6年も会っていなかった修道女見習いの一人娘リーズル(ミア・スレアプレトン)を後継者に指名する。家庭教師のビョルン(マイケル・セラ)と共に資金調達と計画推進の旅に出た父娘だが、計画を妨害しようとする者が現れたり、行き着く先々で出会うビジネスパートナーたちもクセ者ぞろい。さらに、リーズルの母が殺害されたという黒い噂も囁かれており、旅の最中、その死の真相も追うことに。
「映画というより芸術作品」「どの場面を切り取っても絵になる」…ウェス・アンダーソンならではの映像美
アンダーソン作品の魅力といえば、まるで美術館を訪れたような感覚が味わえる絵画的に構築された映像で、過去には「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」という展覧会が開催されたほど。今回もルネ・マグリットやルノワールなど本物の美術品を使用した壮麗なザ・ザの屋敷に始まり、プライベートジェットの機内、豪華なジャズクラブから資材が置かれた建築現場、建設中のトンネルに至るまでが、シンメトリー(左右対称)な画面構成やレトロカラーを基調にした色遣いも相まって、どれもが魅力あふれる場所として登場している。
「ウェス・アンダーソン作品は映画というより芸術作品という感じがする」
「どの場面を切り取っても絵になる。美しい色彩と構図」
「ウェス監督ならではのパステルやビビットな世界観がすてき!」
「ひと言で感想を言うなら、観る美術館でした。構図、色はもちろん、出てくる美術品も全部本物!」
美術や装飾だけでなく、画角や構図にも独自のこだわりが。オープニングクレジットでは事故後のザ・ザがバスタブでくつろいでいる姿が映しだされ、その周りで使用人たちがせわしなく働いている。この一連は真上から長回しで撮影されており、何気ない日常のシーンにもかかわらず、緻密に計算された俳優たちの動きを俯瞰で眺めているうちに気づけばどんどん画面に引き込まれてしまう。