犬童一心監督が共感する『星つなぎのエリオ』の“孤独”と“つながり”「僕も空を見上げるのが大好きだった」
「同じ価値観を持つその友人のことを思い出してみると、僕のほうがグロードンで、彼がエリオだった」
――エリオが孤独を解消するためには友人を作る以前に、自分が立ち上がることが必要だったんですね。
「そうです。それに、この作品で描かれる“孤独”はもうひとつある。宇宙にいるのは人間だけではない、だから我々は孤独ではないということも伝えている。また子どものころの話になりますが当時、宇宙に存在する知的生命体は人間だけと聞かされた時、僕はとてつもない孤独感と言うか絶望感を味わったんです。それだけで映画1本作れるんじゃないかというくらい(笑)。
なぜかといえば、人間だけだったら、ほかの視点がなくなってしまうから。外からの視点に助けてもらえるんじゃないかという気持ちがあるのに『いや、それはないね』と言われたら絶望しちゃうでしょ?(スティーヴン・)スピルバーグの『未知との遭遇』はそういう想いを込めて作られた映画ですよ。善良な宇宙人、僕たちを助けてくれるかもしれない宇宙人は存在するということを、リアリティをもって伝えたい。その出会いをみんなに想像させたかったから作った映画なんです。立花隆のノンフィクション『宇宙からの帰還』には、宇宙から地球を見て価値観が大きく変わってしまったアストロノート(宇宙飛行士)の談話がたくさん収められている。違う視点から地球を見ると、それだけ価値観が変わるということです。エリオも地球を離れ、みんなと出会ったことでそういう視点を持ち、自分自身、変わることが出来たんです」
――犬童監督にはグロードンのような友達はいましたか?
「中学生の時、同じように映画が好きな友人ができましたね。それまで映画は僕の“裏の顔”だったんですが、彼と映画の話をごくごく普通にできるようになって“表の顔”になった。ちなみに、それまでの表の顔は野球であり漫画。僕、野球がとても上手かったんですよ。ただし、野球が好きなだけで勝負はどうでもよかったんです。負けるとみんな悔しがるけど、そういうのはどうでもいい。そもそも男同士で酒を飲み意気投合するというのも苦手…そういう価値観だったせいもあって少女漫画に救われたんです。少女漫画にはそういう要素、ないですから。
こうやって同じ価値観を持つその友人のことを思い出してみると、僕のほうがグロードンで、彼がエリオだったかなって(笑)。高校生になって映画を撮りたいというと、『そうか、とうとう始めるんだね』という感じで、とても自然に受け止め手伝ってくれました。彼は僕の気持ちを100%わかってくれて、本当に助けてくれました。いや、やっぱり、僕のエリオですよ(笑)」。
――犬童監督は『インサイド・ヘッド2』に続き、本当にいろいろ、子ども時代のことを思い出したんですね。
「そうですね。僕がディズニー&ピクサーのアニメーションを観ていつも思うのは、クリエイターやスタッフが、自分の子ども時代の思い出をよく憶えているということ。なぜなら、それぞれのエピソードがちゃんと地に足ついているというか、記号化されてないから。実際にその瞬間に立ち会ったに違いないという感じが伝わってくる。あとから見たり知ったりしたことを集めてオタクっぽく作るのとはやはり違うんです。だから、自分が経験したからこそだろうと思えるようなエピソードが散りばめられている。制作スタート時にはみんなで思い出話、経験話に花を咲かせて、作品のヒントにしているんじゃないかなあ。それに、そういう思い出をたくさんもっている人がいい仕事をしてスタジオで生き残るのでは?そこまで思ってしまいましたからね(笑)」。
取材・文/渡辺麻紀