映画のプロたちが『リライト』をネタバレギリギリ解説!お約束の刷新、役者陣のアンサンブル、“沼”なキャラ…あふれる魅力とは?
パラドックスだけでなく、キャラクターも「沼」深い!(ライター・阿部裕華)
映画『リライト』は、単なるSFミステリーではない。魅力的なキャラクターたちが複雑な物語に奥深い彩りを与え、観る者の心に深く刻み込まれる。特に、本作に登場する男性キャラクターの「沼」が深い。筆者が気になった3人の男性キャラクターの奥深さをひも解いていく。
まず、物語の核となる存在の一人、園田保彦。ミステリアスな雰囲気を纏った好青年の転校生というだけで、誰もが彼に注目してしまうのは当然だ。彼はクラスの中心に立つタイプではないが、その掴みどころのない存在は周囲を静かに惹きつける。そんな彼が、主人公である美雪にだけ未来から来たという「秘密」を打ち明けてくれるのだから、美雪だけでなく観客の胸も高鳴るのは必然である。普段、教室ではどこか素っ気ない態度を見せる保彦が、2人きりになると突然、楽しそうな表情を見せ、会話が弾む。そんなギャップに触れれば、美雪が瞬く間に彼に恋に落ちてしまうのも当然であった。
保彦を演じるのは、本作が映画初出演となる阿達慶。彼を一目見た瞬間、その透明感あふれる佇まいに心を奪われた。太陽が燦々と降り注ぎ、快活な印象が強い「夏」という季節に、阿達の持つ儚げでミステリアスな雰囲気は、いい意味でかすかな違和感をもたらす。その繊細なイメージは、まさに保彦の掴みどころのない魅力と、彼が20日で未来へ戻るというせつない運命の儚さをいっそう助長させているようであった。阿達の存在が、保彦というキャラクターに深い奥行きを与えていることは間違いない。
保彦とは対照的な存在として描かれるのが、クラスのまとめ役である酒井茂(倉悠貴)だ。彼は明るく快活なムードメーカーであり、クラスの中心人物として、おそらく男女問わず目立つタイプである。映画序盤では、単なる気のいいクラスメイトに過ぎなかったが、物語が進むにつれて明かされる「ある事実」が、彼の印象を劇的に変える。
彼がなぜ、クラスのまとめ役を自ら買って出ていたのか。そして、彼が保彦やクラスメイトたちのため、どれほど想像を絶するような「涙ぐましい努力」を重ねていたかが明らかになった時、観客は皆、彼の献身的な姿に心を打たれ、抱きしめたくなる衝動に駆られるだろう。その努力は、見えないところで大きな役割を果たしていたのだ。茂というキャラクターが、世界一幸せになってほしいと願わずにはいられない、そんなあたたかくもせつない魅力を放つ存在であることは確かだ。
最後に、主人公、美雪の夫である石田章介(篠原篤)は、その登場からして、いかにも人のよさがにじみ出ている人物である。出版関係の職に就いていることから、小説家である美雪の仕事に対して深い理解を示し、常に寄り添うよき理解者として描かれている。美雪が仕事で予期せぬトラブルに巻き込まれた時、誰よりも早く、真っ先に動いてくれるという揺るぎない頼もしさを持つ。
また、どんな困難な状況にあっても、常に前向きであたたかい言葉を美雪に投げかけ、彼女を支え続ける。美雪の実家で、彼女の母と美雪、そして章介の3人が食卓を囲み朝食を食べるワンシーンだけでも、章介が美雪の家族とも良好な関係を築いていることが察せられ、夫としてこれ以上ないほど頼もしい存在であることが伝わってくる。なかなか大変な出来事が連続して起こるが、「この人がいるおかげで、美雪はきっと大丈夫だろう」という、不思議なほど根拠のない、だが確かな安心感が常に観客の心にも宿る。
彼らの「沼」深い魅力こそが、本作の大きな見どころの一つであり、鑑賞後も長く余韻に浸れる理由でもあると考える。
何度も観て、多くの見どころを確かめたくなる『リライト』
緻密なシナリオ、舞台やキャストも含めた全体的な設計、キャラクター造形と、それぞれ異なる視点から『リライト』の魅力が語られた通り、一度観ただけでは本作の魅力を隅々まで味わい尽くせない。そして、鑑賞後にはもう一度最初から確認したくなるのも、本作の大きな魅力の一つだろう。レビューで書かれたことをヒントにしながら何度も観に行くことで、あなたも抱いた感想を“リライト”してみてはいかがだろうか。
構成/サンクレイオ翼