映画のプロたちが『リライト』をネタバレギリギリ解説!お約束の刷新、役者陣のアンサンブル、“沼”なキャラ…あふれる魅力とは?

コラム

映画のプロたちが『リライト』をネタバレギリギリ解説!お約束の刷新、役者陣のアンサンブル、“沼”なキャラ…あふれる魅力とは?

緻密に織り成された細部と役者陣のアンサンブルに唸る(映画ライター・牛津厚信)

屋上でクラスメイトの茂に会った保彦は、秘密を打ち明ける
屋上でクラスメイトの茂に会った保彦は、秘密を打ち明ける[c]2025『リライト』製作委員会

昨今、これほど“タイムリープもの”が世にあふれるなか、本作にはひときわ抜きん出て感情をかき立てるノスタルジーと、観る者を迷宮へといざなうおもしろさが詰まっている。「あ!」という驚きはいくつも巻き起こるものの、奇をてらった強引さが先行するわけではない。語り口は全編にわたって落ち着いていて、登場人物が織り成す10年越しの運命や決断を焦らず、急がず、溜息がこぼれるほどじっくりと味わせてくれる。

なにがこの映画を輝かせているのか。いま考えると、その筋書きが極めて無駄なく研ぎ澄まされていることに気づかされる。例えば、「転校生=未来人」という、作品によっては判明するまでに多少時間のかかる真相に重きを置かず、あえて大前提として、本人の口からわりとサラリと語らせる。これによってスピードと展開力が増し、本作はほかにじっくりと時間をかけて解き明かすべき大きなミステリーへと注力することが可能となっているように思える。

美雪は保彦に小説を完成させると約束する
美雪は保彦に小説を完成させると約束する[c]2025『リライト』製作委員会

そしてこの映画には冒頭、「転校生と主人公の恋愛模様」を丁寧に描き上げるくだりがある。ここで「私」という主体を刻み、彼らが経験する「ひと夏の恋」がいかにかけがえのない大切な瞬間であったかを印象付ける。この一見、オーソドックスなシーンが、物語的にも、機能的にも本作の核のようなものであることにじわじわ気付くのは、おそらく中盤以降、10年後にかつての同級生たちが集い始めてからだ。詳しくは明かさないが、しっかりと序盤で主旋律を定めているからこそ、刻々と形を変えて変奏が高鳴り合う「立体的なひねり」が際立つ。これぞ書き手の熟練の腕。法条遥による原作の痺れるほどのおもしろさもさることながら、『サマータイムマシン・ブルース』をはじめ数々の傑作でおなじみの上田誠(ヨーロッパ企画)が脚色を手掛けているのも納得のポイントと言えよう。


加えて、物語に底知れぬ魔法をかけているのは「尾道」という舞台だ。未来人のくだりといい、穏やかな海辺の景色といい、広い空といい、ラベンダーの香りといい、やはりあの名作を意識しないわけにはいかない。誰しもの深層心理にあのタイトルやあのセリフが深く折り込まれているからこそ、我々は様々な場面で目配せ、奥行きを感じながら、二重三重にこの物語を噛み締めることができる。

文学少女で、美雪とは本や映画の話をする仲の雨宮友恵(橋本愛)
文学少女で、美雪とは本や映画の話をする仲の雨宮友恵(橋本愛)[c]2025『リライト』製作委員会

とここまで、筋書き的な面ばかりを書き連ねてきたが、本作を感情豊かに彩った池田エライザをはじめとするキャスト陣のすばらしさも高く評価したい。白眉なのは「私だけの物語」かと思っていた特別な思い出が、徐々に私だけのものではなかったと気付きゆく過程だろう。いわば本作には、クラスメイトの数だけ主人公がいると言っても過言ではない。登場人物の各々が自分の胸にしまっていた感情や信じていたものを吐露し合うダイナミズムの秀逸さ。10年越しの同窓会は波が最高潮に達するまさにその瞬間だ。思いがけない告白に皆の表情が刻々と移り変わり、誰かのセリフにまた誰かが歯切れよく応酬しながら一つのゴール(真相)へと向かっていく。まさにキャスト全員が呼吸を合わせて積み上げる舞台劇のような集中力と、はたまた映画ならではのフラッシュバックを用いた巧みな表現性が有機的に高まり合う名シーンである。このアンサンブルの魅力に心底ゾクゾクするものを感じる自分がいた。

【写真を見る】クラスメイトたちとの関係はどうなる?本編を観るとすぐさまわかる、意味深な人物相関図
【写真を見る】クラスメイトたちとの関係はどうなる?本編を観るとすぐさまわかる、意味深な人物相関図[c]2025『リライト』製作委員会

もちろんカメラの裏側で松居監督の巧みな采配が介在しているのは言うまでもない。この映画を観ていると、あらゆる細部が立体的なパズルのごとく全体を支え合っている様がひしひしとうかがえ、この絶妙なるバランスにやはり深く溜息をつかずにいられないのだ。

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