第78回カンヌ国際映画祭が開幕、今年の賞レースを牽引する作品は?日本からは早川千絵監督最新作『ルノワール』『遠い山なみの光』『8番出口』など7作品が上映

コラム

第78回カンヌ国際映画祭が開幕、今年の賞レースを牽引する作品は?日本からは早川千絵監督最新作『ルノワール』『遠い山なみの光』『8番出口』など7作品が上映

サプライズゲストも登場!カンヌ映画祭の開幕

今年のカンヌ映画祭コンペティション部門の審査委員長はフランスを代表する俳優のジュリエット・ビノシュ。開幕に先駆けて行われた審査員記者会見では、審査委員長ビノシュに対して、同日に撮影現場での性暴力の罪で懲役18か月の執行猶予付き有罪判決を受けた仏俳優ジェラール・ドパルデューについての質問や、ガザ情勢に関する質問が投げかけられた。ビノシュはドパルデューを「司法によって裁かれた一人の人間」と述べ、マスコミによる特別扱いを疑問視した。同様に、世界の映画人たちがフランスの新聞リベラシオン紙に掲載した、ガザ連帯への声明文に対しても質問が出たが、明確な立場表明は避けている。夜に行われた開会式典では、ACID(インディペンデント映画普及協会)部門のドキュメンタリー映画で描かれている、ガザ攻撃で命を落としたパレスチナ人ジャーナリストにオマージュが捧げられていた。映画祭と政治的声明は毎年意見が分かれるところだが、映画祭としては作品への純粋な評価に軸を置く一方、個人の意思を尊重するスタンスは変わらないようだ。

今年は、フランスを代表する俳優ジュリエット・ビノシュがコンペティション部門の審査委員長に(『真実』)
今年は、フランスを代表する俳優ジュリエット・ビノシュがコンペティション部門の審査委員長に(『真実』)[c]Everett Collection/AFLO

ビノシュ審査員長とともに、昨年『私たちが光と想うすべて』(24)でグランプリを受賞したインド人監督パヤル・カパーリヤー、アメリカ人俳優ハル・ベリー、イタリア人俳優アルバ・ロルヴァケル、メキシコ人監督カルロス・レイガダス、韓国人監督ホン・サンスら、国際色豊かな審査員がパルムドールなど受賞作品を決定する。開会式ではビノシュの豊かなフィルモグラフィが祝福され、その中には昨年審査員を務めた是枝裕和監督の『真実』(19)も含まれていた。また、ロバート・デ・ニーロに名誉パルムドールが授与され、共演作の多いレオナルド・ディカプリオがプレゼンターとして登壇。デ・ニーロは受賞スピーチで、トランプ米大統領が掲げる映画関税を激しく批判し、抗議を呼びかけた。開会式終盤にはクエンティン・タランティーノが登場し開幕を告げるというサプライズもあった。

映画祭の華やかな部分を担うレッドカーペットについても、映画祭より"お達し"が告げられた。昨今流行っている肌の露出が激しいヌーディなドレスや、通行を妨げるような大振りなドレスを禁止する新たなドレスコードを発表した。規則に背くと、今後レッドカーペットへのアクセスを禁じる罰則もあり得るという。カンヌ映画祭のレッドカーペットが注目される度にこういった規則が作られ、過去には「セルフィー禁止」などの規則が発表されたこともある。

下半期の映画界の潮流を作る場として定着した、カンヌ映画祭

ショーン・ベイカー監督が脚本・プロデューサーとして参加した『Left-Handed Girl』
ショーン・ベイカー監督が脚本・プロデューサーとして参加した『Left-Handed Girl』

昨年のパルムドール受賞作『ANORA アノーラ』(公開中)は、10か月後に発表された米アカデミー賞で作品賞など5冠を受賞した。そのほかにも『サブスタンス』(公開中)『エミリア・ペレス』(公開中)などがカンヌ映画祭からアカデミー賞までを駆け抜け、下半期の映画界を彩るインディペンデント映画と海外作品のお披露目の場として定着している。『ANORA アノーラ』を手掛けたショーン・ベイカー監督は、批評家週間に出品されている『Left-Handed Girl』(日本公開未定)の脚本・プロデューサーとしてカンヌの地に戻ってきた。同作はベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)や『レッド・ロケット』(21)のプロデューサーを務めた台湾系アメリカ人ツォウ・シンチンの初監督作品。ベイカー監督の『タンジェリン』(15)と同様、iPhoneによって撮影されている。批評家週間は、新しい才能を発掘する部門として注目されており、2022年には『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ監督)が上映されたことも記憶に新しい。

カンヌでの上映後、アカデミー賞をはじめ様々な映画賞で高評価を得た『aftersun/アフターサン』
カンヌでの上映後、アカデミー賞をはじめ様々な映画賞で高評価を得た『aftersun/アフターサン』[c]Everett Collection/AFLO

パルムドールを含む各賞は5月24日(現地時間)に発表される。今年も、アワードを賑わし、インディペンデント映画の潮流を作る映画が多く初上映されることだろう。


文/平井伊都子

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