帝国側に属する“普通の人間”を深堀りした「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」。その結末をどう捉える?

コラム

帝国側に属する“普通の人間”を深堀りした「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」。その結末をどう捉える?

「実はいい人を見るのはおもしろい」カイル・ソーラーが語る、シリル・カーンに惹きつけられる理由

2人の関係が気になる状況から始まるシーズン2では、真面目さが空回りし、不幸が連鎖していたシリルの状況が一気に好転。新たに就職した帝国標準局の燃料純度部で昇進し、さらにデドラとは母親に結婚を前提とした挨拶をするような関係となっていた。その後、シリルは帝国にとって重要な場所となる惑星ゴーマンの標準局支局長として赴任。その目的は、ゴーマンにおける反抗勢力と接触して情報を収集するという、デドラと、そして大きくは帝国の役に立つ隠密行動をすることにあった。

それぞれを想う気持ちは本物だが、すれ違いが生じてしまうシリルとデドラ(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)
それぞれを想う気持ちは本物だが、すれ違いが生じてしまうシリルとデドラ(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)[c]2025 Lucasfilm Ltd.

世の中に秩序をもたらしている帝国がシリルにとっては正義であり、帝国に役立つことが彼にとっての正しさの証明でもある。シーズン2では、デドラと距離が縮まったことで、まさにシリルの理想が成就したように物語が進んでいるのだ。帝国の在り方を正しいと信じ、キャシアンと敵対する立場にあるシリルだが、演じるソーラーはシリルの演技については次のように語っている。

「第二次世界大戦直前の1930年代に生きた人々について、自分なりに調べてみたんです。彼らは大義に振り回され、ファシズムに振り回された普通の人々でした。どのような理由であれ、心を動かされやすい人たちだったんです。僕はシリルを単なる悪人として扱いたいとはまったく思いませんでした。それではおもしろくないし、リアルではないと思ったんです。トニー(・ギルロイ)もそう思っていました。彼は現実に根ざした、物事があいまいな状況で活動する、実に多面的で、地に足の着いたキャラクターを書きます。間違った選択をするかもしれないけど、実はいい人を見るのはおもしろいんです。または、その逆もあります。だから、僕の頭の片隅にはそのことがありました。彼らのモラルは、ファシズムや帝国のようなものが悪であると考えることができないところまで侵食されていたんです」。


シリルを演じたカイル・ソーラーは帝国側の人間の心理について、戦時中の人々を引き合いに出して分析(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)
シリルを演じたカイル・ソーラーは帝国側の人間の心理について、戦時中の人々を引き合いに出して分析(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)[c]2025 Lucasfilm Ltd.

“実はいい人を見るのはおもしろい”。それは、まさにシリルが単なる悪役に見えないような演じ方の重大なポイントであったと言えるだろう。角度を変えれば帝国が中心の世界においては彼は真面目過ぎるくらいの善良な市民であり、そうした部分も重要視して演じるからこそシリルは憎みきれないキャラクターとして魅力を発しているのだ。

シリル・カーンとキャシアン・アンドーがついに相まみえる時、なにが起こるのか

シーズン2では、そんなシリルの真面目さがいい方向へと進んでいくが、シーズン1からひとつだけ大きく欠けていたものが彼の運命を大きく変えていくことになる。それこそが、キャシアン・アンドーという人物の存在だ。シリルはキャシアンを追うことで人生が狂ったが、デドラとの出会いをきっかけにキャシアンと関わらなくなって状況が好転。では、再びシリルがキャシアンのことを思い出し、出会ってしまったらどうなってしまうのか?もちろん、すでにその答えはドラマの中では出てしまっている。シリルの迎える運命は、彼が視聴者に近い等身大の人物だからこその現実感と無情感がこみ上げてくるはずだ。鬱陶しい小者の悪役かと思っていた人物は、物語が進むと共に「できれば彼には幸せな結末を迎えてほしい」と思われるように変化していったからこそ、その結末は劇中でも屈指の衝撃的なシーンとなっている。

【写真を見る】執着し続けたキャシアン・アンドーと出会った時、シリル・カーンはどんな行動を起こすのか…(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)
【写真を見る】執着し続けたキャシアン・アンドーと出会った時、シリル・カーンはどんな行動を起こすのか…(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)[c]2025 Lucasfilm Ltd.

“帝国側の人間”であるシリル・カーンの生き様を目撃してほしい(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)
“帝国側の人間”であるシリル・カーンの生き様を目撃してほしい(「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」シーズン2)[c]2025 Lucasfilm Ltd.

改めて振り返ると、シリルというキャラクターは、視聴者が「自分が帝国の統治下に置かれた世界に入った時、世界がどのように見えるのか?」という視点を残酷なほどリアルに投影したキャラクターだったと言える。特別な力や大きな才能を持たなかったシリルがいたからこそ、「スター・ウォーズ」の世界を通して帝国という独裁がもたらす影響や、その世界での正義の在り方や見え方を考えに想いを馳せることができた。一見すると無情感が強めな彼の人生は、だからこそより苦くて印象的な形で「キャシアン・アンドー」というドラマを我々の胸に刻み付けてくれたのではないだろうか。

文/石井誠

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